第4話 イノシシさん、ようこそ
イツキが野良ダンジョンを管理することを決めてから一ヵ月。
無断で野良ダンジョンの管理人となったイツキだが、ダンジョンの運営は今のところ順調で問題なく進んでいる。もちろんバレてもいない。
管理人と名乗ってはいるが、やることはダンジョン内の見回りとモンスターの間引き。正直探索者の時とほとんど変わらない。でも危険はなく、毎日肉が手に入るおかげでそこそこモチベーションは保てている。
しかし1人で管理するのがそろそろ面倒になってきていた。まだ一ヵ月しか経っていないが、飽きてきたというのが正直な気持ちだ。かといって人に頼ることもできない。見切り発車過ぎたかもしれない。イツキはどうしたものかと考えていた。
とある日。いつものようにダンジョン向かう途中。整備されているが古い山道を歩いていると、
「ん?何かいる」
山の中で生き物の気配を感じた。このあたりに動物はいないはずだが。多分クロではない。クロなら無警戒に出てくるはずだからだ。
イツキは気配のある方へと向かう。そこにいたのは、
「イノシシ…、やっぱりいたのか」
1匹のイノシシ。背の高い草の間からこちらの様子を伺っている。この山のどこかにいるとは聞いていたが、イツキがここに来てから遭遇するのは初めてだった。
野良ダンジョンの発見以降、イツキは山の見回りも並行して行なっていた。だがクロを除き、イノシシどころか他の動物の姿は全く見つけることが出来ずにいた。そこまで本腰を入れてやっていなかったとはいえ、今まで一体何処に隠れていたのだろうか。
それはさておき、このイノシシ。このまま放置する訳にもいかない。さて、どうしたものか。
「そうだ、ダンジョンで飼えないかな」
ふと、そんなことを思いつく。
野生動物はダンジョンを避けるという話を聞くが、野良猫と思われるクロは平気そうだった。ならこのイノシシも大丈夫なのではないだろうか。一度試してみる価値はある。
そうと決まればこのイノシシを早速捕まえてみよう。と意気込んでみたはいいものの、今のイツキは手ぶらだ。イノシシを捕獲するような道具は持っていない。道具を収納している異空間にも都合のいいものはなさそうだ。
「ダンジョンまでそんなに距離ないし、担いでいけばいいか」
イツキは素手でイノシシを捕まえることに決めた。イノシシへと近づくイツキ。威嚇するイノシシを全く恐れず、イツキはズンズン進んでいく。
「そう警戒しなさんな、悪いようにはしないって」
イツキがそう声をかけた瞬間、イノシシはイツキ目掛けて一直線で突進してきた。障害物となる物はなく、距離も数メートルしかない。猛スピードで迫るイノシシを前にイツキは避ける素振りもせずにその場に立ち止まったまま。
「ほい、捕まえたっと」
イノシシを真正面から受け止めたイツキは、そのままイノシシを担ぎ、ダンジョンへと歩き出した。
イノシシを担いでダンジョンに到着したイツキ。広い草原の中をクロが無防備に昼寝をしていた。ダンジョンに来ると大抵クロがここで寝ている。このダンジョンはクロのお気に入りスポットらしい。
「ニャ」
イツキに気付いたクロが近づいてくる。イツキの担ぐイノシシを不思議そうに見る。
「ん、このイノシシ?ダンジョンの仕事手伝ってもらおうかと思って連れて来たんだ。ああ、安心してくれ、ここはクロ専用だから」
「ニャ」
イツキの説明を聞いたクロは納得したらしく、昼寝をまた再開する。
無理やり運ばれ最初は暴れていたイノシシだったが、観念したのか今は大人しい。
第2階層に着くとイツキはイノシシを解放する。
「お疲れさん、あとは自由にしていいよ」
いきなりダンジョンの中に解放されたイノシシは戸惑った様子を見せていたが、やがて周囲を確認し始める。この階層はイツキの山の中と似た環境だ。上手くいけば馴染んでくれるはず。
イノシシはフンフンと匂いを嗅ぎながら周囲を歩き始める。その様子を見守るイツキ。
イノシシが突然立ち止まる。何かを警戒しているようだ。するとイノシシの前方の茂みから角ウサギが現れた。
イノシシと角ウサギが対峙する。角ウサギはイノシシに向かって威嚇している。モンスターは外部の生き物に反応すると聞いていたが、人だけでなく動物も例外ではないようだ。こうして野生動物とモンスターが対峙する場面を見るのは初めてなので若干ワクワクしている。
どちらも引く様子はなく、このまま戦闘になりそうだ。
しばらくにらみ合いが続いたが、角ウサギが先に動いた。イノシシ目掛け飛び出す。イノシシは一歩も動かず。その場で真正面から迎え撃つようだ。
角ウサギがイノシシに直撃する。が、角ウサギの体は軽く、角も小石程度なのでイノシシに大したダメージは入っていない。
イノシシはぶつかった衝撃で宙に浮いた角ウサギを牙で攻撃する。振り上げた牙は角ウサギに命中する。
その一撃が決定打となり、角ウサギは空中で消滅する。魔石と肉がその場に落ちた。
イノシシと角ウサギの戦闘を見ていたイツキ。これなら大丈夫そうだなと頷く。角ウサギ程度ならイノシシでも勝てるようだ。
イノシシはドロップしたウサギ肉に興味を示している。クンクンと匂いを嗅いでいる。大丈夫と判断したのか、イノシシはそのまま生で肉を食べ始めた。
これで角ウサギを倒せば肉が手に入ると学習してくれればいいのだが。あと確か、この階層には薬草が生えていたはず。一応食べられるはずだから、イノシシがここで生きていくことは可能だと思う。
あとは水か。この階層には水場はなかったはず。ダンジョン内だからここを掘っても水は出てこないだろう。確か荷物に水が出る魔道具があったはずから、あとで適当な場所に設置しておこう。
イノシシが定住できそうなら、魔石で動く噴水でも買うことにしよう。
食事を終えたイノシシは草原の奥へと消えていく。この様子なら逃げずにこのまま居ついてくれると思う。明日、見に来た時どうなっていることやら。
ひとまず実験は成功だといえるだろう。




