第32話 存在進化
イツキがニーナたちの元へ戻ってきた。
1ヵ月以上も留守にしていたのに元気そうだ。
「みんな、ただいま」
「イツキ、おかえりっ!」
ニーナが笑顔で出迎える。
「おかえりイツキング。まーったく、どこほっつき歩いてたの~?」
「悪い悪い。本当はすぐ済むはずだったんだ」
イツキは今まで何をしていたのか話す。
イツキはとあるダンジョンの最奥ボスのドロップ品を手に入れるために家を空けていた。そのダンジョンと最奥ボス自体は別に苦戦するような相手ではない。
単純にお目当てのものが出なくて時間が掛かっていたのだ。そのため何度も周回する羽目になった。イツキはそんなに運の悪い方ではないはずなのだが、いわゆる物欲センサーというのが働いたのだろう。
「で、これがそのアイテムだ」
イツキが取り出したのは直径10センチ程の透明な玉。
「スキルオーブ?」
ニーナが質問する。スキルオーブとはその名の通り、スキルを入手できるアイテムだ。
「いや、これはスキルオーブじゃない」
イツキは否定する。
「えっ、まさかそれって……」
イツキの手にある玉の正体に気付くアゲハ。
「おっ、アゲハは流石に知ってるみたいだな」
「『存在進化のオーブ』だ」
『存在進化のオーブ』。その名の通り生物としての存在を一段階引き上げることができるアイテム。ただし誰にでも使用できる訳ではない。適性がある者にしか使用できない。
「イツキ、そんな凄いもの誰に使うの?」
「ああ、使う相手は決まってる。おいクロ、いるか?」
「ニャ?」
イツキが呼び掛けるとクロがひょっこりと現れた。
「まさかクロっちに使うの!?」
アゲハが驚く。クロはモンスターでも従魔でもない。特別な能力もないただの普通の猫だ。
「クロ、ちょっとこれ使ってみないか?」
イツキは軽いノリでクロに『存在進化のオーブ』の使用を促す。
「ニャ」
クロはあっさりと承諾する。
イツキたちはダンジョンに場所を移し、クロがアイテムを使用するのを見守る。
「ニャ」
クロは地面に置いた『存在進化のオーブ』に手をかけた。するとクロの周囲が光に包まれる。
少しして光が収まり、クロの姿が再び現れる。
「あれ?変わってないよ?」
ニーナの言う通り、クロの姿に変わったところは見受けられない。
「ニーナっちよく見て。尻尾尻尾」
アゲハがクロの尻尾を見るように促す。
クロの尻尾は1本増え、2本になっていた。
「うん、成功だな」
イツキは満足そうに頷く。
「ねぇ、何が変わったの?尻尾が増えただけだよ?」
「ニーナっち。大事なのは見た目じゃなくて中身の方だよ。ほら、クロっちの気配なんか違うでしょ?」
「あっ、ホントだ」
クロの内側からは今までに感じたことのないエネルギーが溢れていた。これはスノウに近い感じがした。
「やはり素質があったようだな」
スノウが奥から現れる。クロの姿を見ても驚く様子はない。
「スノウ。クロに聖域の出し方を教えてやってくれ」
「あいわかった」
クロは存在進化したことでスノウと同じ神獣としての格を得た。これによりクロは聖域を作ることが可能になった。
聖域とは神獣が持つ固有スキルのようなもので、聖域内はその神獣の支配下となる。ちなみに聖域は1つしか持てない。
スノウはすでに自分の聖域を持っているため、イツキはクロにこのダンジョンを聖域化してもらうことにしたのだ。
ここを聖域化してしまえば、この前のような異世界からの外敵の侵入を防ぐことができる。
「あれ?」
クロを改めて鑑定していたアゲハ。
クロは確かに神獣に存在進化していた。それは問題ない。しかし気になる項目があった。
「ねぇイツキング」
「ん?何だ?」
「『存在進化のオーブ』って進化するだけだよね?」
「そうだが?」
「えっとね、驚かないで聞いて欲しいんだけど……」
「何々、どうしたの?」
イツキとアゲハの会話にニーナも混ざる。
「クロっち、ダンジョンマスターになってるよ」
「は?」




