第31話 イツキのいない日々と昔話
聖女が転移してきた事件から数日後。聖女を追い返したスノウが戻ってきたのと入れ替わるようにしてイツキはどこかへ出かけて行った。
行き先を誰にも告げず、イツキがいなくなってから1ヵ月が経過する。
「ただいまー」
ニーナがダンジョンの見回りから帰ってくる。
「ニーナっちお帰り~」
出迎えるアゲハ。
「アゲハ、イツキは?」
「ううん、まだ帰ってきてない」
「そっか……」
ニーナの表情が一転して暗くなる。ここ数日は毎日こんな感じだ。今までイツキが長期間家を空けることはニーナが来て以降は一度もなかった。
その上、目的や行き先も教えてもらっていない。ニーナは表面上は明るく振舞っているが、実際は不安と寂しさで一杯だった。
もしかしたら自分のことが嫌いになったのかもしれない。そんなことを考え始めるようになっていた。
そんな様子を見かねたアゲハはとある昔話を聞かせることにした。
「これはちょっとだけ乱暴だけど優しい男の子のお話だよ」
※※※
あるところにダンジョン管理局の受付をしている女の子がいました。
その女の子は入ったばかりの新人で、いつも上司に怒られていました。
仕事はできるけど地味で気弱な性格だったために探索者たちに舐められて、いつも報酬の不当な引き上げをさせられていました。
上司は女の子に対して怒るだけで助けてくれません。女の子はいつも一人ぼっちでした。
そんなある日、一人の男の子がダンジョン管理局にやってくる。
いつものように受付で探索者から無理難題を押し付けられそうになっていた女の子。
それを見た男の子は、
「雑魚が汚い真似してんじゃねぇ」
その探索者を殴り飛ばしてこう言った。
「探索者なら実力で稼げ。文句があるならかかってこい」
そういってその場にいた探索者全員をボコボコにしてしまった。
「な、なんだお前は」
騒ぎを聞きつけ奥から女の子の上司が現れる。
「お、出てきたか。手間が省けてラッキーだぜ」
「こんなことをしてわかっているんだろうな」
「あ?それはこっちのセリフだ。テメエらのやってることは全部わかってるんだよ」
当時女の子が所属していたダンジョン管理局では探索者たちと上司が結託して不正を行なっており、女の子はその不正のために利用されていた。
男の子はその調査にやってきたのだ。
そうしてその場を制圧した男の子によって事件は解決した。
「あんたについてはお咎めなしだとよ。良かったな」
何も知らなかった女の子はただ利用されていただけということで処罰はありませんでした。
「あのさ」
「はい、なんでしょうか?」
「もっと自分に自信を持った方がいいぜ」
「え?」
「いくら仕事ができても、そんな態度じゃどこいっても舐められたままだぜ」
「……」
「見た目からでも変えてみたらどうだ?顔はいいんだからもったいぞ」
それから女の子は変わった。
ド派手な髪ピンク髪とギャルメイク。男の子のアドバイス通り、まずは見た目から変えてみることにした。彼女が思う舐められない姿だ。
はじめのうちは慣れなかったが、やっていくうちにだんだんと周りの目も気にならなくなった。自信がついたことで仕事も上手くいくようになり、その後はとある人物の専属の部下として活躍するようになる。
※※※
「で今のウチがいるってわけ」
イツキは普段はぶっきらぼうな態度をとっているが優しい人間なのをアゲハはよくわかっていた。
「理由もなくずっと家を空けるのはよくないことだけど、」
「イツキングはきっと今もニーナっちのために頑張ってるんだと思うよ」
イツキの出かけた理由はアゲハも知らされていない。だがニーナのために動いているという確信だけはあった。
「だから心配するだけ損損」
「うん、わかった」
ニーナはイツキのことを信じて待つことにした。
それから数日後。
イツキがようやく帰ってきた。




