第30話 神獣の警告
時は遡り、スノウが異世界に着いた直後の話。
聖女をおぼしき少女と共に異世界に戻ってきたスノウ。
この聖女が転移してきた目的は、おそらく勇者か巫女もしくはどちらも含めた捜索だろう。つまりイツキとニーナが目的なのは間違いない。
そう判断した理由はこの聖女自らが転移してきたこと。聖女は本来教国から出ることはない。聖女がわざわざ出向くほどの案件。それは勇者と巫女に関連することは確実だった。
イツキが即座に追い返す判断をしたのは正しかった。
だがこのままではまた同じことをする可能性がある。警告する必要があった。
となれば早速、聖女を引き取ってもらおう。
現在スノウは自身の住処にいる。スノウの住処は氷に覆われた極寒の地。
ここから一番近くにある国は確か教国だったはず。この国には巫女を信仰する例の教団がある。おそらくこの聖女もその関係者であることは間違いないだろう。
ちょうどいい。ゴミ捨てついでに一つ脅かしてやろう。
スノウは聖女を咥え、猛スピードで教国へと向かった。
そして教国に到着したスノウ。
教国では伝説の神獣が現れたことで、国中が大騒ぎになっていた。
「これはお主らのものか?」
スノウは咥えていた聖女を投げ捨てる。
神官たちが慌てて聖女を保護する。
「神獣様、この度は我が国の者を助けていただき、誠に感謝致します」
「礼は不要だ。それより何故、勇者と巫女を探す?」
この国のトップと思われる老人にスノウは問いかける。
「それは魔王の討伐のためでございます」
魔王、か。相変わらずこの世界の人間はくだらない争いが好きなようだ。
魔王と呼ばれる者はこの世界に確かに存在する。しかし、それは魔族を束ねる王というだけで、人間たちと何一つ変わらない。別に世界征服など目論んでいない。
むしろ好戦的なのは人間たちの方だ。特にこの教国は人間至上主義の国で、魔族や亜人を差別し迫害している。
そんな人間たちに嫌気がさして、かつて伝説の大魔法使いと呼ばれた我が主はこの世界を見限ったのだ。
「一度だけ警告する。勇者と巫女を探すな」
スノウは圧を強め、警告する。スノウの威圧に耐えられない一部の人間たちが倒れる。
「で、ですが神獣様。これは神からの神託であって……」
「これは我が主の願いでもある。何か文句があるか?」
ギロリと老人を睨むスノウ。
「い、いえ!とんでもございません」
神の神託などと言っているが、実際は神託など降りてきていないだろう。大方、都合のいい方便として利用しているに違いない。
それはスノウも同じことだった。スノウの主はシルフィー。確かに先の言葉はシルフィーの願いでもあるが、この者たちが従う理由はない。
しかし教国の人間たちは神獣の主は神であると勝手に勘違いしている。スノウはそれを利用したのだ。
「話は以上だ」
スノウは教国をあとにした。
その後、教国はスノウの警告を神の神託とし、それ以降勇者、巫女の捜索をやめたのだった。
自身の住処に戻ったスノウ。
氷に覆われた大地には何もない。神獣であるスノウは本来、食事を必要としない。しかし異世界、特に食に優れた日本の食べ物を知ってしまった。
今ではもうそれ無しでは生きられない体になってしまっていたのだった。
ここでの仕事は終わった。
主には報告したのでその内戻れるであろう。
スノウの心には昼食を食べ損ねた後悔が残る。
その原因を作った教国でもう少し暴れてもよかったかもしれない。
そんなことを思いながら静かに時を待つのであった。




