第29話 招かれざる客
スノウがイツキたちの元へやってきてしばらく。
特に変わったこともなく、いたって平和な日々が続いていた。
「来いイツキ」
「今日こそノーダメで勝ってやる」
第5階層のボス部屋にて。イツキとスノウは模擬戦を行なっていた。
模擬戦とはいえ、手を抜くことなどはなくお互いに全力で戦う。そのため周囲に被害が及ばないボス部屋で模擬戦は行われていた。
ボス部屋内はどんなに暴れても攻撃の余波が外に漏れることはない。イツキとスノウレベルになるとダンジョン内であっても、全力で戦える場所は限られるのだ。
ちなみにボス部屋の主であるオークキングは部屋の隅で縮こまっていた。オークキングは2人に無視されているが、流れ弾に当たりいつの間にか消滅していた。
この模擬戦はスノウがイツキと会うと行なう恒例行事のようなものだ。普段なら面倒がるイツキだが、ニーナの1件もあってか素直に取り組んでいた。
「む、そろそろ昼か。今日はこの位にしておこう」
朝から始まった模擬戦。昼を回る前に切り上げる。
「もうこんな時間か」
「今日の昼食は何であろう?」
ボス部屋から出るイツキとスノウ。スノウは先程まで全力で戦っていたとは思えない程元気だ。
「昨日近所の人に野菜を大量にもらってたから中華系じゃないか?」
「ほう、楽しみだ」
スノウのお腹が盛大に鳴った。
従魔は本来、主の命がない時は元の住処にいることが多い。スノウも例外ではない。スノウの元いた場所は異世界にある。しかしスノウはこちらの食事を気に入り、戻ることはなかった。
尻尾をブンブン振り、ただの駄犬と化したスノウとダンジョンをあとにしようとしたその時、
「っ!スノウ!」
「イツキ、こっちだ」
イツキとスノウは何かを感じ取り、スノウの先導でその発生源へと向かう。
「うむ、この辺りのはずだが……」
異変の発生源は第3階層。
ちょうど階層の中心に当たる場所だった。
「やはり来たか」
「おいこれってもしかして……」
「イツキの想像通りだ」
2人の目の前には1人の少女が倒れていた。
白の修道服にモデルのように綺麗に整った顔立ち。意識がなくても絵になる姿。こちら側の人間でないことは明らかだった。
「スノウ、これってもしかして」
「ああ、こやつは聖女で間違いなかろう」
イツキでも感じ取れる程の膨大な魔力量。やはりこの少女は普通の探索者ではなかった。
「なぁ、聖女自らやってくることってあるのか?」
「さてな。その辺りのことは我が主の方が詳しかろう」
この聖女は何か目的があってこちらへやってきたのは間違いないだろう。しかし場所が悪かった。イツキは厄介事に巻き込まれるつもりはない。
「スノウ、こいつ追い返せ」
イツキはスノウにこの少女を異世界に追い返すよう伝える。
「む、せめて昼食を食べた後では駄目だろうか」
「駄目だ。起きたら面倒だ。すぐ行け」
「はぁ、仕方ない」
スノウは渋々イツキの指示に従う。
少女を咥えるとスノウの足元に魔法陣が展開される。
「ところでどこに捨て置けばよいだろうか?」
「そうだな。こちらに来る気を起こさないようにでかい街にでも連れてけ」
「あいわかった」
スノウと少女はその場から消えた。
従魔の性質を利用して異世界に追い返すことに成功した。
ひとまず何とかなりホッとするイツキ。
その後すぐにこのことをシルフィーに報告した。イツキの対応は問題ないと返答をもらった。聖女の来訪はこちらにとって益はないとのことだった。
それから数日後。
イツキはダンジョンをニーナたちに任せ、どこかへ出かけて行った。




