第27話 神獣フェンリル
ダンジョンの中に入ったスノウは本来の姿に戻った。
巨大な白狼の姿をしたスノウの正体はフェンリル。
異世界では神獣と呼ばれる伝説の存在として知られていた。
「……フェンリル様」
ニーナはスノウを見て呆然とする。
「安心するが良い。我はお主らに危害を加えたりせん」
スノウは自身が放つ圧を弱める。ニーナの緊張が和らぐ。
「えと、スノウ様」
「呼び捨てで良い」
「い、いえ。そんな訳にはいきません」
「ふむ、ではせめて言葉遣い位は普段通りにしてもらえないだろうか」
スノウはニーナに普通に接するよう求めた。
「え、あ、はい。わかりました。じゃなくて、わかった」
「うむ」
スノウは満足そうに頷く。
異世界では神獣として崇められていたこともあったが、ここではただの従魔に過ぎない。気軽にとまではいかなくても、普通に接して欲しかったのだ。
「ニャ?」
とそこへクロがやってくる。クロはまた新しいやつが来たのかといった感じでスノウを目踏みしていた。
「あっ、クロ先輩」
「ニーナ、この者は?」
「えっと、この猫はクロ先輩と言って、ここを最初に見つけたの」
「なるほど」
スノウはクロを見つめる。クロはスノウに臆することなく、毛づくろいを始める。
「ほう、我を恐れぬとは大したものよ」
普通の動物であればスノウを見たら逃げ出すか、その場ですくみ上がるというのに全く動じていない。
「こんな者はイツキ以来だな」
ふと昔のことを懐かしむスノウ。
「あの、スノウ様はイツキと知り合いなの?」
「うむ」
スノウはニーナにイツキとの出会いを語り始める。
当時新人探索者のイツキは問題児で、数々の規則違反を起こし、手に負えない存在だった。その日も規則を無視し、危険指定のダンジョンに勝手に入っていた。
そのダンジョンの奥深くにはスノウがいた。
フェンリルはこちらの世界では災害級のモンスターとして知られていた。当時シルフィーはスノウの正体を極一部の者にしか明かしておらず、普段は危険指定されている人が立ち入らないダンジョンの奥深くにスノウを配置していた。
そんな場所で出会ってしまったのが悪かったのか、イツキはスノウをただのモンスターだと思い戦いを挑んだ。
一方スノウは自分に臆することなく戦いを挑むイツキを強者と認め、迎え撃つことにした。
異世界でも恐れられていたスノウは人と戦う機会がほとんどなかった。向こう見ずではあるが、確かな実力を持つイツキはスノウにとって不足なしの相手であったのだ。
最初はスノウの優勢で進んでいた戦闘だったが、時間が経つごとに成長するイツキにより、その差は次第に拮抗するようになる。
異変に気付いたシルフィーが止めに入らなかったら負けたかもしれない。そう思えるほどイツキのポテンシャルは高かった。それは昔共に戦った人間を彷彿とさせるものだった。
戦闘を通しイツキが異世界の勇者と同じ力を持つと知ったスノウはイツキをこのまま放置するのは危険だと判断し、シルフィーに進言する。
この世界は異世界よりも未熟だ。イツキを御することができるのはシルフィーしかいないだろう。
スノウとの一件のあと、イツキはスノウの件も含めた自身が起こした数々の規約違反を清算するため、シルフィーの指導を受けることになった。
その時にシルフィーから一般常識など様々なことを学んだイツキは、以前に比べ大人になった。その時にシルフィーの正体を知る。
スノウとは危険指定のダンジョンを共に攻略したり、時に戦闘訓練と称しギリギリの戦いをさせられる羽目になっていた。
そんないきさつもあり、イツキはスノウのことを嫌っているが、スノウは逆にイツキのことを高く評価していた。
異世界含めシルフィー以外にスノウが認めた人間は数人のみで、イツキはその1人に含まれていた。
ちなみにシルフィーの元にいた期間は罰を償う名目でもあったので、その間に行なった仕事はすべて無報酬となっていた。
※※※
「イツキって凄い人だったんだね……」
話を聞いたニーナはイツキの凄さを知り驚く。
「これからは我もいるからここは安泰だぞ」
「そうだね、スノウ様とイツキがいれば怖いものなしだね!」
ニーナがそう言うと、
「ニャ!」
クロが自分もいると主張する。
「あは、そうだね。クロ先輩もいたね」
(ふむ、主が我をここに寄越した理由はこれか……)
クロと楽しそうに会話するニーナを見て何かを察したスノウ。
(あとでイツキに話しておくか)
「ニーナよ、ダンジョンの案内を頼む」
「うん、わかった」
それよりまずはこのダンジョンを案内してもらおう。
スノウはニーナの案内でダンジョンの先へと進んだ。




