最後のミッション、愛の証明
「……バレちゃあ、仕方ないね」
地下施設のコントロールルーム前。
私たちが問い詰めると、怜くんはあっさりと自分が『シークレット・ジョーカー』であることを認めた。いつもおどけていた彼の目に、感情の色はない。
「怜くん、どうしてこんな酷いことを!」
「仕事だからだよ。俺だって首輪をつけられてる。ゲームマスター(黒幕)の指示通りに動かなきゃ、死ぬのは俺だ」
その時。
全員のスマートフォンが一斉に鳴り響いた。
画面が血のような赤色に染まる。
『最終ミッションを発動します! これが正真正銘、最後のテストです!』
モニターのウサギが、狂ったように笑い声を上げた。
『ミッション名【究極の愛の選択】。
皆様のスマートフォンに、2つのボタンが表示されました。「青」を押せば自分の首輪の毒が作動し、ペアの相手が助かります。「赤」を押せば相手の首輪が作動し、自分が助かります。
制限時間は1時間。両方押さなかった場合、あるいは両方が「赤」を押した場合……2人とも仲良くデッド・エンドです!』
「なっ……ふざけんな!」
司くんが叫ぶ。
つまり、自分が生き残るためには相手を殺すか、愛する人を守るために自分が死ぬか。
最悪の二択だ。
「いやっ……私、死にたくない……!」
司くんとペアを組んでいた莉奈さんが、泣き叫びながらスマホの「赤(相手を殺す)」ボタンに指を伸ばす。
「莉奈! 待て、やめろ!」
司くんが莉奈さんを止めようと揉み合いになり、莉奈さんがバランスを崩して階段から落ちそうになった。
「危ない!」
司くんは咄嗟に莉奈さんを庇い、代わりに自分がコンクリートの床に強く叩きつけられてしまった。
「つ、司くん……!? なんで、私、あなたを殺そうとしたのに……」
「……男が、女の子を守るのは、当然だろ……バカ」
頭から血を流しながら笑う司くんを見て、莉奈さんは声を上げて泣き崩れた。
「……結愛」
静かな声で、湊くんが私を呼んだ。
彼のスマホの画面には、すでに「青(自分が死ぬ)」ボタンに指が置かれていた。
「湊くん、ダメ!!」
「俺の目的は、姉さんの復讐だった。でも、今は違う。俺は、お前に生きて帰ってほしいんだ」
彼のミステリアスな瞳が、今は優しく私を見つめている。
「私もだよ! 湊くんがいない世界なんて、絶対に嫌だ!」
残り時間はあと15分。
その時、ずっと部屋の隅でパソコンをいじっていた花音ちゃんが、弾かれたように顔を上げた。
「……いけるかも!」
「花音ちゃん?」
「私、ずっと地下のセキュリティシステムをハッキングしてたの。この番組のメインサーバーに侵入すれば、首輪のタイマーを一時的に止められる……はず!」
普段はおどおどしている花音ちゃんの眼鏡の奥の瞳が、今は天才ハッカーとして鋭く光っていた。
彼女はずっと、私たちが生き残るための反撃のチャンスを窺っていたのだ。
「でも、完全に解除するには、ゲームマスターがいる奥のコントロールルームから直接システムを壊さないとダメみたい……!」
「……上等だ」
湊くんが立ち上がる。
「花音、タイマーの停止を頼む。結愛、行くぞ。黒幕をぶっ潰す」
「うん!」
私たちは手を取り合い、洋館の最深部、ゲームマスターが潜むコントロールルームへと駆け出した。




