裏切り者の影と、甘く危険な密室
「それでは、第2の『ラブ・ミッション』を発表しまーす!」
モニターの中の不気味なウサギが、甲高い声で告げた。
昨夜、ペアを組めず「ストレイ・シープ(迷える子羊)」となった花音ちゃんが、傷だらけになりながらも生還した翌朝。
私たちは再び、洋館のエントランスに集められていた。
『今回のミッションは、【ペア同士で手錠をかけ、24時間過ごすこと】です!』
「手錠……!?」
私は思わず自分の首輪――『キューピッド・チョーカー』に触れた。
「はい! 各自、テーブルの上の手錠でパートナーと繋がってください。手錠のケーブルは最長で1メートル。
それ以上離れようとしてケーブルを引きちぎったり、無理に外そうとしたりすれば……ドカン! いや、ブスッ! ですね。首の毒針が作動します」
ウサギはケタケタと笑う。
「なお、昨夜罰ゲームをクリアした花音さんは今回お休みです。さあ、生き残りたければ、24時間ずーっと、ぴったりくっついて愛を育んでくださいね!」
残された6人。
私は迷わず、湊くんの隣に向かった。
「湊くん、あの……昨日、助けてくれたから。もしよかったら」
「……勝手にしろ」
相変わらず冷たい声だったけれど、彼は拒絶しなかった。
カチャリ、と冷たい金属音が鳴り、私の右手と湊くんの左手が、頑丈な手錠で繋がれる。
その瞬間、グッと腕を引かれた。
「わっ……!」
「気をつけろ。1メートルなんてすぐだ」
彼との距離が急に縮まり、フワリと爽やかな石鹸の香りがした。
冷たそうに見えて、彼の手首から伝わる体温はとても温かい。
極限状態だというのに、私の心臓はミッションとは違う理由でドキドキと音を立てていた。
「おい、行くぞ」
「えっ、どこに?」
「このふざけた館の、探索だ」
湊くんは私を引っ張るようにして、洋館の奥にある図書室へと向かった。
壁一面に古い洋書が並ぶ、薄暗い部屋。
湊くんは私と繋がれたまま、片手で次々と本棚を調べ始めた。
彼はずっと、この島の「秘密」を探っていたのだ。
「……見つけた」
湊くんがある分厚い本を引くと、ガコンッ、と鈍い音がして、本棚の一部が隠し扉のように開いた。
「嘘……隠し部屋?」
「離れるなよ」
私たちは息を殺して、暗い小部屋に足を踏み入れた。
そこは埃っぽく、中央には古いデスクトップパソコンが1台、ポツンと置かれていた。
湊くんがパソコンを起動すると、パスワードもなしに画面が開いた。
そこには、信じられない言葉が並んでいた。
「……『ダークウェブ・ブロードキャスト』……?」
「やっぱりな」
湊くんが忌々しそうに舌打ちをする。
「ダークウェブって、何?」
「普通の検索エンジンじゃ絶対に見つけられない、裏のインターネットのことだ。犯罪者や、ヤバい趣味を持つ金持ちが使う。……俺たちは今、そのイカれた連中に『殺人恋愛ショー』として生配信されてるんだよ。俺たちが死ぬか生きるか、誰とキスするかに、巨額の金が賭けられてる」
「そんな……!」
私たちは見世物だったの?
翔太くんが死んだのも、全部、誰かの娯楽のため?
吐き気がした。しかし、絶望はそれだけではなかった。
「結愛、これを見ろ」
湊くんが指差したファイルには、『シークレット・ジョーカー(裏切り者)について』と書かれていた。
「ジョーカー……?」
「参加者の中に1人、運営側のスパイが紛れ込んでるってことだ。俺たちを騙し、ゲームをかき回すためのサクラがな」
信じられない。
この中に、私たちを殺そうとしている人間がいる?
その時だった。
「キャアアアアアアッ!!」
エントランスの方から、莉奈さんの悲鳴が聞こえた。
「行くぞ!」
私と湊くんは手錠で繋がれたまま、必死で走った。
エントランスに戻ると、御曹司の司くんが喉を掻きむしりながら床に倒れていた。
口からは泡を吹き、苦しそうに痙攣している。
その横には、割れたティーカップが散乱していた。
「司くん! 誰か、水……いや、吐かせないと!」
湊くんが駆け寄る。
翔太くんの時と同じだ。
誰かが、紅茶に毒を入れたんだ。
「嘘でしょ……」
私が立ち尽くしていると、親友の美桜が、震える指で私を指差した。
「結愛……あんたが、やったの……?」
「え……?」
「私、見たの! 結愛がさっき、司くんのカップに何か白い粉を入れてるのを!」
「なっ……美桜!? 何を言ってるの、私じゃない!」
必死に否定するが、美桜の目は氷のように冷たかった。
他のメンバーの疑いの視線が、一斉に私に突き刺さる。
ジョーカーという言葉が脳裏をよぎる。
私を陥れようとしているのは――ずっと一番の親友だと思っていた、美桜なの?




