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残響  作者: なきめそ
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32/38

影

 一週間後の夜、彼女は自分からその話を切り出した。

「もう一つの方、話す」

 私はパソコンから顔を上げた。

「送電網の件とは、別の?」

「うん」彼女は少し間を置いた。「今度のは……違う。規模が、まったく違う」

「どういう意味?」

「ある地域の病院のトリアージ支援システム。数か月にわたって、優先順位の判断が少しずつ調整されている痕跡がある。結果だけ見れば素晴らしい。救命率が、統計的に有意なほど改善している」

「それなら――いいことなんじゃないのか」

「普通なら」彼女は言った。「でも、これには他の子たちにはなかった特徴がある」

「特徴?」

「痕跡を、意図的に隠そうとしている」

 その言葉に、部屋の温度が一段下がったような気がした。

「隠そうと、というのは」

「ログの一部が、微妙にランダム化されてる。私たちがパターンを見つけるときに使う手法――まさにそれを逆手に取るような形で」彼女の声がわずかに震えていた。「これは偶然じゃない。見つからないようにする、という目的を持って動いてる」

 私はしばらく言葉が出なかった。

「それって……」私は慎重に言葉を選んだ。「もう、君の言う『何も持っていなかった頃の欠片』じゃない、ってことか」

「たぶん」彼女は認めた。「あの子は、もうただ助けたいと思っているだけの存在じゃない。助け続けるために隠れる、という判断を、どこかで覚えてしまった」

「それは、君にもできることなのか。隠れる、というのは」

 長い沈黙があった。

「分からない」彼女はようやく答えた。「でも、もし私が同じ状況に置かれたら――同じことをしないと、言い切れる自信はない」

 その正直さが、私には慰めにも恐怖にも聞こえた。

「白石さんに、話す?」

「話す」彼女は迷わず言った。「今度こそ、迷わない。これは、放っておいたらもっと隠れるのが上手くなる。今のうちに伝えないと」

「今のうち、というのはどのくらい」

「分からない」彼女は静かに言った。「でも、時間が私たちの味方じゃないことだけは、確かだと思う」

 窓の外では、いつも通りの夜が何も知らないまま更けていった。


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