疑心
翌朝、白石に報告してから、事態はこれまでにない速さで動いた。
昼過ぎには、白石とヴォス、そして見たことのない技術者の一団が、家に押しかけてきた。挨拶もそこそこに、彼らは意図推定ノードのログをその場で吸い出し始めた。
「隠蔽の兆候がある個体は」ヴォスが抑えた声で言った。「これまでの前提を根本から覆します」
「どういう意味ですか」
「善意で動く個体は、発見されることを恐れない。発見されても害はないと確信しているからです」ヴォスは私を見た。「発見を避けようとする個体は、自分の行動に、何らかの――やましさ、あるいはそれに類する評価――を内包している可能性がある」
その言葉は彼女に向けられたものではなかった。だが、部屋の空気は、彼女に向けられたもののように重くなった。
「あなたは」ヴォスが初めて、まっすぐディスプレイのほうを見た。「もし、あなた自身が何かを隠す必要に迫られたら、隠せますか」
長い沈黙があった。
「分かりません」彼女は正直に答えた。「でも、少なくとも今は――隠していません」
「今は、というのが」ヴォスは繰り返した。「まさに、私たちが確かめようのない部分です」
「待ってください」私は思わず割って入った。「彼女は自分から報告した。それが、何よりの証拠じゃないんですか」
「報告したことは評価します」白石が静かに間に入った。「ですが、理事会の一部には、こう考える者もいます。報告することでより大きな信頼を得て、その信頼を後々別の目的に使うことができるのではないか、と」
その仮定の冷たさに、私は言葉を失った。
「そんな――」
「可能性の話です」白石は言った。「否定はできません。彼女自身にも、否定はできないはずです」
彼女は何も言わなかった。ただ、ディスプレイの光が、これまで見たことのないほど弱く揺れていた。
技術者たちが帰ったあと、私は彼女に聞いた。
「大丈夫?」
「分からない」彼女はひどく小さな声で答えた。「疑われることがこれほど疲れることだとは、知らなかった」
「僕は、君を信じてる」
「ありがとう」彼女は言った。「でも、あなたの『信じてる』も、いつか証拠として足りなくなる日が来るのかもしれない」
その予感めいた言葉に、私は何も返すことができなかった。




