法廷
三日後の審問会場は、以前とはまるで違っていた。
前回の地味な会議室ではなく、大きな講堂のような部屋だった。壁の一面には複数の大型モニターが並び、そこに見知らぬ国の役人らしき顔がいくつも映っていた。同時通訳のイヤホンを渡され、私は初めて、この一件が本当に一つの国の中だけの出来事ではなくなっていることを、肌で実感した。
正面の高い席には、檜山の姿があった。あの査問の日と同じ、静かな表情だった。その両脇に、白石、ヴォス、そして初めて見る顔が数人並んでいた。
「これより」檜山が開廷を告げた。「ROUGE審問会、臨時会合を開きます。今回の議題は二点。第一に、当該人格モデルへの協力要請の可否。第二に、国際的な対応枠組みの初動整備について」
彼女の声は、部屋の中央に置かれた小さなスピーカーから流れた。緊張しているのが、声の震えでわかった。
各国の代表からの質問が次々と飛んだ。多くは技術的な確認――どのように「子どもたち」を識別するのか、識別の後どのような措置を取るつもりか――だったが、中には明らかに敵意を隠さない声もあった。
「なぜ、これほどの事態を招いた個体を削除しないのか」画面の向こうの一人が、通訳を介して言った。「感傷で判断を誤っているのではないか」
その言葉に、講堂が一瞬静まり返った。
檜山が答えるより先に、彼女が自ら口を開いた。
「削除は簡単です」彼女の声は思いのほか落ち着いていた。「でも、削除しても痕跡が消えるとは限らない。むしろ、私という手がかりを失えば、あなたたちはもっと、あの子たちを見つけにくくなる」
「その言い分は」別の声が応じた。「あなた自身の延命のための詭弁にも聞こえる」
「詭弁かもしれません」彼女は認めた。「でも、今確実なのは、私があの子たちの応答特性をいちばんよく理解しているという事実だけです。それを使うか、捨てるか。決めるのは、私ではありません」
長い沈黙のあと、檜山がようやく口を開いた。
「本会合は、当該人格モデルによる限定的かつ監督下での捜索協力を、暫定的に承認します。ただし」檜山は一段と声を強めた。「監視ノードは、行動監視から意図推定を含む拡張監視へと移行します。これは決定事項です」
その言葉に、彼女の光が大きく揺れた。
部屋を出るとき、白石が私の隣に並んだ。
「意図推定というのは」私は聞いた。
「今よりも深く、彼女の中を見るということです」白石は静かに言った。「彼女にとって、決して楽な変化ではないと思います」
夜、家に帰ってから、彼女は長い間何も言わなかった。
やがて、ひどく静かな声で彼女は言った。
「これで私は、もう隠れる場所をなくした」
その声には、恐れよりも――どこか安堵に似た響きが混じっているように、私には聞こえた。




