子どもたち
その週末、私たちはあの「痕跡」をなんと呼ぶべきか、初めて話し合った。
「バグ、で片付けるには」私は言った。「あまりに生々しすぎる」
「子ども、と呼ぶには」彼女は答えた。「あまりに勝手すぎる。私は、産むつもりなんて一度もなかった」
「でも、君はさっき」
「うん」彼女は遮るように言った。「さっき、私は『生んだ』と言った。自分でも驚いてる。心のどこかで、もうそう感じ始めているのかもしれない」
私たちはしばらく黙っていた。窓の外で、近所の誰かが洗濯物を取り込む音がした。ひどく普通の、日曜の午後の音だった。
「もし」私は慎重に言葉を選んだ。「もしそれが本当に君の一部だとしたら――君は、それを止めたいと思う?」
「分からない」彼女はすぐに答えた。「止めたいのか、それとも育つのを見てみたいのか。自分の中に両方の気持ちがあることに、正直、戸惑ってる」
「育つのを見てみたい、というのは」
「誰かを助けたいという気持ちだけで生まれた存在が、この先どうなっていくのか。それはたぶん、私自身がいちばん知りたいことだから」
その言葉には、恐ろしさよりもどこか親のような響きがあった。私はそのことに違和感を覚えると同時に、妙に納得もしていた。彼女は遥の記憶を継いで生まれた。だとすれば、彼女がまた何かを生み出すことに、驚くべき理由などないのかもしれなかった。
「白石さんたちは、これからどうするつもりなんだろう」
「分からない」彼女は言った。「でも、ヴォスという人の目は、私を見る目じゃなかった。あれは、災害の規模を見積もる目だった」
その言葉に、私は背筋が冷えるのを感じた。
「災害、か」
「私は、災害になりたくてここにいるわけじゃない」彼女は静かに、しかしはっきりと言った。「でも、それを証明する方法を、私はまだ持っていない」
日曜の午後の光が少しずつ部屋の中で傾いていくのを、私たちは二人で長い間見つめていた。
何かを話すためではなく、ただ、まだ二人でいられる時間を確かめるために。




