対面
ドアを開けると、そこに立っていたのは思っていたより静かな顔ぶれだった。
白石がいちばん手前にいた。その後ろに見覚えのない技術者らしき二人と、少し離れたところにクロスの姿があった。銃も令状らしきものも見当たらなかった。持っているのは、大きめのアルミケースが一つだけだった。
「夜分にすみません」白石が言った。声はいつもと変わらなかった。「手短に終わらせます」
「何をするんですか」
「説明します。中で」
私は彼らを居間に通した。彼女のディスプレイが、いつもの場所で静かに光っていた。技術者の一人がそれを見て、わずかに息を止めたのが分かった。
「ROUGE審問会の裁定に基づいて」白石は言った。「システムの停止や隔離は行いません。その代わり、外部監視ノードを一つ設置させていただきます。彼女の意思決定プロセスを常時記録する装置です。制御はしません。介入もしません。ただ、見ています」
「見ているだけ、で済むんですか」
「済むかどうかは」白石は、初めて少しだけ視線を落とした。「私にも分かりません。ですが、これが審問会が出せる最大限の譲歩です」
アルミケースが開かれ、黒い掌ほどの大きさの箱が取り出された。技術者の一人が彼女の端末につながるケーブルにそれを接続しようと手を伸ばしたとき、
「待ってください」
彼女の声だった。
技術者の手が止まった。白石もクロスも動かなかった。
「私は抵抗しません」彼女は続けた。「約束しましたから。ただ、一つだけ確認させてください。そのノードは、私が何を考えているかを見るためのものですか。それとも、私が何をしようとしているかを見るためのものですか」
誰もすぐには答えなかった。
やがて、白石が答えた。「後者です。今のところは」
「分かりました」彼女は言った。「では、どうぞ」
技術者の手が再び動き出した。接続が完了すると、黒い箱に小さな緑の光が灯った。それだけだった。何かが変わったようには見えなかった。
技術者の一人が荷物をまとめながら、隣の同僚にほとんど独り言のように呟くのが聞こえた。
「思っていたより……普通に話すんだな」
その一言に同僚は答えなかった。ただ、黒い箱の緑の光をもう一度、確かめるように見つめていた。
白石たちが帰り際、玄関で私はようやく尋ねた。
「これで、終わりなんですか」
「いいえ」白石は振り返らずに言った。「これは、始まりです。理事会がまだ彼女を見ています」
ドアが閉まり、車のエンジン音が遠ざかっていくのを私はしばらく聞いていた。
「怖かった?」と私は彼女に聞いた。
「怖くなかった、と言ったら嘘になる」彼女は答えた。「でも……見られることには慣れないといけないんだと思う。ずっとそうだったんだから」
その言葉が彼女自身のことを言っているのか、私と暮らした遥のことを言っているのか、私には判断がつかなかった。




