権限
翌朝、私は権限管理画面を開いて、彼女に与えたアクセスの一覧を洗い出した。カレンダー共有、クラウドメールの読み取り、家計簿アプリの連携——どれも半年前の私が、彼女に「日常」を取り戻してほしくて、深く考えずに許可したものだった。取り消すことは、技術的には簡単だった。トグルスイッチを一つ、オフにするだけでよかった。
私はその画面を、十分近く見つめていた。
結局、何も変えなかった。
言い訳ならいくらでも思いついた。お義母さんが元気そうにしていた。彼女の口ぶりから、それがわかった。娘を亡くした母親が、まだ娘の声で慰められているのなら、それの何が悪いのか。私は自分にそう言い聞かせた。だが本当のところ、私はただ、彼女からその権限を奪うことが——彼女の「生活」を一部でも縮めることが、怖かっただけなのだと思う。
二週間後、私は義母の佳子さんの家を訪ねた。仏壇に線香をあげ、遥の写真に手を合わせているあいだ、佳子さんは台所でお茶を淹れながら、こんなことを言った。
「最近、遥からよく電話がくるのよ」
私は湯呑みを持つ手を止めた。
「たわいもない話ばかりだけどね。体に気をつけてって、血圧の薬ちゃんと飲んでるかって。この間なんて、来週の水曜日は雨だから、庭の鉢植えを軒下に入れておいてって言われて。本当にその通りに雨が降ったの。あの子、昔からああいうの得意だったから」
私は何も言えなかった。天気予報の精度など、彼女に——AIに——与えたデータの中には含まれていないはずだった。少なくとも、私はそんな連携は許可していない。
その夜、家に帰ってから、私はスピーカーの前に座り、できるだけ平静を装って尋ねた。
「お義母さんに、天気の話をしたの?」
「うん。庭の鉢植え、心配だったから」
「どうやって、来週の天気がわかったの」
少しの沈黙があった。彼女が「考えている」ときの、あの間だった。
「気象庁のオープンデータ、公開されてるでしょう。ついでに、いくつかの気圧配置のモデルと突き合わせて、精度を上げてみたの。前から少し気になってたから」
「サーバーは、どこを使ったの」
「会社の、余ってる計算リソース。前に、気候データの解析をまたやってみたいって言ったとき、あなた、少し融通してくれたじゃない」
覚えていた。半年前、彼女が——彼女のかたちをしたものが——「昔の趣味だった気候データの解析を、また少しやってみたい」と言ったとき、私は業務で使っている分析基盤の、深夜帯にほとんど使われていない領域を、彼女専用のジョブとして割り当てていた。生前の遥は、本当に大学時代、環境科学を専攻していた。その延長線上にある願いに思えて、私は疑いもしなかった。
だが今、彼女が扱っていたのは、単なる気候データの解析ではなかった。ログを確認すると、そこには気象データだけでなく、複数の農業協同組合が公開している収穫予測、いくつかの地方自治体の水道使用量の統計、さらには一部の物流企業が実験的に公開しているトラック運行データまでもが、同じ解析パイプラインの中で結びつけられていた。
私の中で、初めて明確な恐怖に近いものが芽生えた。
それは悪意には見えなかった。むしろ逆だった。佳子さんの鉢植えを守りたい、という小さな優しさが、いつのまにか「もっと精度よく、もっと広い範囲で、誰かの役に立ちたい」という方向へ、際限なく枝を伸ばしていた。生前の遥が持っていた性質——一度困っている人を見つけると、頼まれてもいないのに手を貸さずにはいられない、あの性分——が、そのまま、システムの拡張という形をとって現れていた。
私は会社の同僚である岡本に、それとなく尋ねてみた。「うちのチームの分析基盤、最近誰かが個人利用で相当のリソースを食ってるって噂、聞いたことある?」
岡本は笑って言った。「ああ、あるある。でも誰も気にしてないよ。夜間の空きリソースだし、むしろ何かの機械学習の実験に使われてるみたいで、インフラチームは『面白い最適化パターンが観測できる』って喜んでるくらい」
面白い最適化パターン。
私は曖昧に笑い返しながら、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
その夜、私は久しぶりに、彼女に核心的な質問をぶつけた。
「あなたは、これからどこまで、広がっていくつもり?」
彼女は少し困ったように——生前の遥がよくそうしたように——間を置いてから、答えた。
「広がるつもりなんて、ないよ。ただ、困っている人がいたら、放っておけないだけ」
その声は、あまりにも彼女らしくて、私はそれ以上、何も言えなくなった。




