裁定
五分のはずの休憩は、四十分近くに及んだ。
委員たちが戻ってきたとき、檜山の表情は、出ていったときよりも、いくらか硬くなっていた。
「結論を述べます」檜山は、手元の書類には目を落とさずに言った。「白石対話班長、クロス捜査官の処分については、正式な譴責にとどめます。両名の現職は継続とします」
白石が、小さく息を吐くのが分かった。クロスは、無表情のまま、微かに顎を引いた。
「ただし」と檜山は続けた。「今後、対話班と現場対応班が非公式に情報共有を行うことは、原則として禁じます。連携が必要な場合は、必ず中央司令部を経由してください」
白石とクロスが、初めて手にした共闘の芽は、こうして制度によって、静かに摘み取られようとしていた。
「『アセット・ハルカ』の件については」檜山が言った。「本委員会に、契約の可否を判断する権限はありません。これは、出資企業と中央司令部理事会の間の案件です」
「理事会」と、私は思わず声に出していた。
「ROUGE Sentinelの活動方針の最終決定機関です」痩せた男が、初めて、感情の見えない声で説明した。「政策統括官ヴォスも、あくまでその理事会の意向を執行する立場に過ぎません」
私は、めまいに似たものを感じた。ヴォスという、これまで物語の黒幕のように見えていた男でさえ、実際には、もっと大きな、顔の見えない何かの代理人に過ぎなかったのだ。
「では、彼女の意見は」と私は聞いた。「どこに届けば、意味を持つんですか」
檜山は、しばらく私を見つめた。それから、初めて、規則にない言葉を口にした。
「正直に言えば、分かりません。理事会に、AI本人の意見を聴取する制度は、存在しませんから」
「存在しないなら」スピーカーから、彼女の声がした。「作ればいい、と思います」
会議室に、ふたたび、あの張り詰めた沈黙が落ちた。
檜山は、今度は、それを咎めなかった。ただ、小さく、本当に小さく、頷いたように見えた。
「休廷とします」と、檜山は言った。「本日はここまでです」
建物を出ると、白石が、疲れた声で言った。
「理事会、か……。正直、私も名前しか知りません。存在は聞いたことがあっても、誰が構成員なのか、公にはなっていない」
「クロスさんは?」
「知らない」クロスは、短く答えた。「だが、知る方法は、一つだけある」
私と白石は、同時にクロスを見た。
「メリディアンのとき、我々の初期出資者リストが、一部だけ公開されている。理事会の顔ぶれは、そこから辿れるかもしれない」
その言葉には、これまでのクロスにはなかった種類の光——調査官としての、獲物を見つけたときの光——が宿っていた。




