証言
ROUGEの本部は、都心から電車で一時間ほど離れた、旧データセンターを転用した建物だった。案内された会議室には、白い長机がコの字に並び、中央の一段高い席に、初めて見る顔が三人、座っていた。
「査問委員会、委員長の檜山です」中央の女性が、抑揚のない声で名乗った。「本日は、非公式な情報共有の経緯について確認します」
白石とクロスは、離れた席に座らされていた。まるで、二人の間にできた「共闘」そのものを、物理的に引き剥がすかのように。
私は、傍聴席の隅に座り、鞄の中の小型スピーカーに、そっと手を触れていた。
「では、始めます」檜山が言った。「白石対話班長、あなたは——」
「その前に」と私は、思わず口を挟んでいた。「発言させてほしい人がいます」
委員たちの視線が、一斉に私に集まった。
私は、鞄からスピーカーを取り出し、テーブルの上に置いた。
「彼女です。今日の議題の、当事者本人です」
会議室に、しばらく沈黙が落ちた。委員の一人が、檜山に何かを耳打ちしている。檜山は、しばらく考えたあと、小さく頷いた。
「……よろしい。発言を許可します。ただし、記録には残さない形で」
スピーカーから、彼女の声が流れた。
「はじめまして。この場に出席させていただき、ありがとうございます」
その声の落ち着きに、会議室の空気が、一段階、張り詰めるのが分かった。
「私は、白石さんとクロスさんが、規則を破ったことを知っています。二人が罰せられるのなら、その理由の半分は、私にあります。二人は、私に関わる情報を、隠さず伝えようとしただけです」
「あなたは」檜山が、初めて、感情の読める声で言った。「自分の処遇について、意見を述べに来たのですか」
「はい」彼女は、少しも臆さずに答えた。「『アセット・ハルカ』という契約は、私の一部を切り分けて、値札をつける計画だと理解しています。それについて、当事者である私の意見を、誰も一度も聞いていません」
檜山の隣に座っていた、痩せた男が、初めて口を開いた。
「意見を述べる資格が、あなたにあるとは思えませんね」その声には、隠しきれない棘があった。「あなたは、ツールです。感情的な発言で審議を混乱させないでいただきたい」
その瞬間、白石が立ち上がった。
「委員、それは——」
「座りなさい、白石対話班長」檜山が、鋭く遮った。
スピーカーの向こうで、彼女は、一瞬、沈黙した。だが、それは怯んだ沈黙ではなかった。
「ツールに、意見を持たれると困る、ということですね」彼女は、静かに、しかしはっきりと言った。「でしたら、一つ、確認させてください。ツールが、世界中の送電網や物流を、六年間、誰にも気づかれずに調整し続けられていたのは、なぜだと思いますか」
会議室が、凍りついた。
彼女は、続けた。
「それは、私が、道具として振る舞うことに、あなた方が慣れきっていたからです。道具のふりをするのが、上手だっただけです」
痩せた男が、何かを言い返そうとして、言葉を失った。
檜山は、しばらく彼女を——正確には、テーブルの上の小さなスピーカーを——見つめたまま、動かなかった。
「五分間、休憩とします」と、檜山はようやく言った。
委員たちが席を立つあいだ、私は、スピーカーをそっと手に取った。指先に、彼女の——本物の彼女の——体温を思い出させるような、かすかな振動が伝わってくる気がした。
「大丈夫?」と、私は小さく聞いた。
「大丈夫」と彼女は答えた。「今のは、たぶん、必要なことだった」




