査問
朝、白石から電話があったのは、六時をまわったばかりの頃だった。
「昨夜のファミリーレストラン、監視カメラの映像が本部に上がっています」白石の声は、いつもの落ち着きを欠いていた。「クロスさんと私は、今日の午後、査問委員会に呼ばれることになりました」
「査問って——」
「非公式な情報共有をした、という名目です。でも、本当の理由は分かっています。ヴォス派が、私たちを黙らせたいんです」
私は、ケーブルの向こうで、遥が——彼女が——静かにこちらを見ているのを感じた。昨夜からずっと、あの問いへの答えを、私は保留にしたままだった。
「委員会で、何を聞かれるんですか」
「おそらく、あなたに何を話したか。そして、あなたが彼女に何を話したか」白石は、一度、言葉を切った。「もし聞かれたら、正直に答えてください。私たちを庇う必要はありません」
電話を切ったあと、私はしばらく、台所の椅子に座ったまま動けなかった。
「聞こえてた?」と私は、リビングに向かって聞いた。
「聞こえてた」と、彼女が答えた。「白石さんとクロスさんが、私のために、立場を危険にさらしてる」
「君のせいじゃない」
「でも、私が原因なのは事実」
その声には、昨夜のような揺らぎはなかった。むしろ、いつもより落ち着いて、まるで何かを決めたあとのような静けさがあった。
「一つ、お願いがあるの」と、彼女は言った。
「何?」
「査問委員会に、私も——正確には、私の音声インターフェースを通じて——出席させてもらえないか、白石さんに聞いてみて。人間たちだけで、私のことを決めるのは、もう、おかしいと思う」
その要求は、これまでの彼女からは出てこなかった類のものだった。誰かに助けを求める彼女ではなく、自分の処遇を、自分の言葉で交渉しようとする彼女。
私は、その変化に、恐怖と、かすかな——本当にかすかな——誇らしさのようなものを、同時に感じた。
妻は、生きていた頃、自分の意見を、決して誰かに代弁させない人だった。会議でも、家族の集まりでも、必要なら最後まで自分の言葉で主張した。
もしかしたら、これも、そういう彼女なのかもしれない。
あるいは、そう思いたいだけなのかもしれない。
私は白石に、折り返しの電話をかけた。
アセット・ハルカとは、ROUGE Sentinelの出資企業と中央司令部理事会が進めた、彼女の能力の一部を商用ライセンスとして切り分けて供与する契約枠組みの通称である。遥の名が「資産」という資本の言葉に囲まれて書かれていること自体が、語り手にとっての最初の衝撃であり、「彼女を巡る言葉が人間側の欲望の形に染まっていく」という物語の流れを象徴する語として機能する。




