第53話:物語は終わらない
ある神話の国を治めるのは見目麗しき4人兄弟。
父は魔物の王、母は元傭兵、現在は夫婦神として広く国を守っている。
癖のある兄弟をまとめている第一王子を王太子とし、彼が成人してからは一日も早く国王の座を押し付けようとあれこれ画策しているらしい。
理由は簡単、ここの国民ならば通りすがりの魔物も知っている。
国王は王妃を離宮に引きずり込んで二人っきりの蜜月を過ごしたいのだ。
政務はほぼ全て王子4人に割り振り、君臨すれども統治せず。とか偉そうな事を言って自分は王妃に日がなべったりくっ付いている。
出会った当初からその状態だったのでべったり状態は諦めているらしい王妃は、苦労性の息子達を大層可愛がっている。
ただたまにじっと第四王子の顔を眺めた後「顔はギル似なのに中身が私似とか残念だよなぁ」とぼやいている。
この間はそのセリフを夕食中に言ったものだから、「ならば次は娘ですね! レイア似ならばさぞかし可愛らしく家宝、いえ、国宝となるでしょう! いざ!」と燃え上がった国王によってさらわれていた。
迂闊なのは変わらないらしい。
第一王子はそこで意識を目の前に戻した。
今は周辺国の状況を報告し合っている最中だった。
「西の王国が攻め入ろうと画策中、東は王女を献上品として国交を図ろうとしています、南は――」
「兄様ごめん! でかい街一個滅ぼしちゃった」
宰相ポジションの第二王子が集められた情報を報告し、ちらりと目線を流された第四王子が両手を合わせて謝罪した。
「ちょーっと偵察に行っただけなのにさぁ、魔物風情がぁって襲ってきたからびっくりしてつい」
「ついで滅ぼした街これで何個目かなー?」
つんつんと末っ子の頬を突きながら第三王子が笑う。
「ごめんなさぁい」
「ま、襲ってきた人間が悪いのですから仕方がない。西はそうですね……確か嫁を欲しがっている魔物がいただろ」
「あー……万年新婚の将軍に配属された連中が……はい」
「西との戦で一番武勇を挙げた者に東の姫を下げ渡します」
「え、じゃあ献上品として受け取るの?」
「まさか」
くくっと笑う姿は母を害されそうになった時の父そっくりである。
「神へ供物を捧げるのは人間の役目、見返りを求めるなど片腹痛い」
「姫なら侍女とかも一緒に来るだろうね~」
「独身が減って何よりです、子孫繁栄大いに結構」
「士気も上がって一石二鳥ですね」
「きまりぃ~」
方針が決まり、では母上に報告を。と立ち上がったところにしくしくと泣き声が響いた。
「決定内容がえげつない……昔は可愛かったのにぃぃ」
いつの間に開けたのか、窓に座って両手で顔を覆っているのは気まぐれに現れる人物だった。
「まだ諦めてないのか」
「可愛くねぇぇ」
「刀鬼様やっほー!」
「お前はまだ懐いてくれるんだね! 部下にどうよ!」
「いや!」
「即答だね」
この会話中、全員が一発ずつ殴りかかっているが全てかわされている。
「会うたびに殴りかからないで」
「家訓なので」
「律儀に守らなくていいと思う、完全に対俺への家訓だし」
『部下に誘う美形が近付いたら殴れ』
子供の頃は意味が分からなかった家訓だが、数年おきにふらりと現れるこの人物と接する事で家訓の意味を知った。
悪い人物ではない。
だが部下になったら苦労するから絶対誘いに乗るなと、現れた報告をするたびにきつく言われている。
正直、ぐらっと来る事がある。
これほどの存在感がある人に仕えてみたいと思う。
しかし兄弟は可愛いし国も愛している、父も多少尊敬しているし、母の言いつけも守りたい。結局は家訓を理由に断るしかない。
「女の子とか生まれないかなぁ」
「連れて行ったら戦争になるかと」
「俺の周り男ばっかりでさ、紅一点で女性もいるけど元海賊首領でドレス贈ったら動きづらいって返品された。しかももっといいもの寄越せって戦利品のサーベル取り上げられた。だから余計に女の子をお姫様扱いしてみたい、ドレスとか贈ってみたいんだよね。よし、ちょっと祝福してくるわ」
言うが早いかするりと窓枠から外に出て姿が見えなくなる。
きっとこれからも王国がある限り変わる事のないやり取り。
「部下になる事は出来ないが、気軽に遊びに来れるよう人間を黙らせておくか」
「出陣準備を整え、母上と将軍に話を通します」
「東の供物を引き取ってくるね」
「僕はー……刀鬼様に遊んでもらってくる!」
百年、千年、ずっと先の未来まで栄えさせるために。
神の国に銀髪銀瞳の可愛らしい姫が生まれ、神と神の主と仲間達がこぞって祝福に押し掛けるのは、それからちょうど一年後。
― Fin ―
ありがとうございました。
蛇足
元海賊の姉御は性格がレイアに似ている為、もし長男が出会ったら惚れる確率高いなぁ。
…………それはそれで面白いか?
バカップル(旦那→→→→→→←嫁)が一組増えるだけですけどね。




