第8話 ロボット漫才
その日も、博樹の一日は慌ただしく過ぎていった。
研究室でHEROと過ごし、伯父の食堂を手伝い、家に戻ってシャワーを浴び、母のために風呂を沸かし、貸与パソコンで研究を進める――そんなルーティーンをこなしているうちに、夜は自然と更けていく。
つけっぱなしにしていたテレビから、賑やかな声が聞こえた。
それでも博樹は貸与パソコンに向かって研究をしている。
「はじめまして、ロボット漫才のヴィランズでーす」
画面には、二体のロボットが並んで立っていた。
銀色のボディに液晶の表情パネル。
関節の動きは滑らかで、人間の漫才師さながらの身振りを見せる。
ロボットLが胸を張って言う。
L「今日は名前だけでも覚えて帰ったってくださいねー。ほな!」
ロボットRがすかさずツッコミを入れる。
R「油売っとらんと漫才せい!」
L「油なら体にさしていますけどね」
LR「ロボットだけに」
テンポの良い掛け合いに、博樹はロボットが漫才をする時代になったのだと、感心した。
それでも、パソコンから目を離さない。
漫才は続く。
L「先日、長野県境から隣の県に車で入ろうとしたら、看板に“この先危険”って書いてあって、そこから先は通行止めになっていたんだ」
R「それってどこ?」
L「未開の地、グンマー帝国」
R「えー?群馬県には新幹線が2路線も通っているんですよ!」
L「でもな、秘密が隠されているから群馬県に入らないように偽装しているんだって」
R「秘密って何?」
L「レアアース」
R「それ、世界中が欲しがっているやつ」
L「ないしょな!それでな、グンマー帝国では石のお金で買い物してたんさー」
R「マンモス肉でも買いましたかね?」
L「ひどいこと言いますねー」
R「君にだけには言われたくない!」
L「でな、お金を受け取ったほうも“ペーイ”とか言っちゃってるの。原始人かと思ったよ」
R「それはスマホ決済ですよ。群馬県は日本ですよ」
L「でもな、グンマーが言うには、このスマホには良い石が入っているんさー。だって」
R「それ、CPUとか集積回路のことを石って呼んでいたんですよ。大昔はね!」
L「ほおら、大昔やないかい」
R「昭和の話や、いいかげんにせい」
LR「どうもー、ありがとうございましたー。ヴィランズでしたー」
ロボットたちが深々とお辞儀をして拍手喝采の中、下手にはけて行った。
博樹は、ロボットが人間の文化をここまで自然に演じることにあらためて感心した。
だが―― テレビ画面が突然切り替わり、緊急ニュースが流れた。
「番組の途中ですが、緊急ニュースをお伝えいたします。本日、吸血鬼ドローン事件の被害者が十万人を超えました」
「続いてのニュースです。本日、骨髄移植のドナーが複数見つかりました。移植を待つたくさんの患者が喜んでいます」
博樹はリモコンを握り、テレビを止めた。
胸の奥が熱くなる。
「……明日、まどかさんにこのことを伝えよう。まだ希望はある」
そう呟いた瞬間、涙がひとつ、頬を伝って落ちた。




