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罪と英雄(SIN-HERO)  作者: 三川三山
第3部 霧島蓮編
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第2話 血液の略奪者

福島まどかのカルテを見た時。


霧島蓮は言葉を失った。


白血病。


画面に表示された病名を見つめる。


自然と拳に力が入った。


まるで。


あの日の洋子を見ているようだった。


「……そうか」


静かに呟く。


妹も同じ病だった。


ドナーが見つからなければ助からない病。


待ち続けるしかない病。


そして。


希望を抱いたまま命が尽きる病。


霧島はノートパソコンを閉じた。


窓の外を見る。


東京の夜景が広がっていた。


何万。


何十万。


何百万もの人間が暮らしている。


その中に。


必ずいるはずなのだ。


福島まどかに適合するドナーが。


にもかかわらず。


見つからない。


それが現実だった。


「なら」


霧島は呟いた。


「こちらから探せばいい」


誰も気づかなかった。


その時すでに。


霧島蓮という男の中で常識は壊れ始めていた。


翌日。


かつて群馬決戦のために使われた巨大倉庫。


そこには整然と並ぶ五千機のドローンがあった。


山田真は腕を組んでいる。


霧島は新しい設計図をテーブルに広げた。


「真」


「なんだ」


「少しだけ改造したい」


真は設計図を見る。


そして眉をひそめた。


「これは……シリンジか?」


「ああ」


「燃料回収用じゃないな」


「ああ」


沈黙。


真は続きを待った。


霧島は静かに言った。


「血液を採取したい」


真は何も言わなかった。


ただ黙っていた。


「二ミリリットルでいい」


霧島は続ける。


「痛みもない」


「傷も残らない」


「採血されたことにも気づかない」


「そして採取と同時にナノGPSを埋め込む」


真は深いため息をついた。


「まさか」


「そのまさかだ」


霧島は笑った。


だがその笑顔はどこか壊れていた。


「ドナーを探す」


「全国規模で」


長い沈黙が流れた。


やがて真が言う。


「それは犯罪だぞ」


「知ってる」


「警察に捕まる」


「知ってる」


「新聞にも載る」


「知ってる」


真は頭をかいた。


そして最後に尋ねた。


「そこまでして救いたいのか」


霧島は答えなかった。


代わりにポケットから一枚の写真を取り出した。


妹。


洋子。


まだ元気だった頃の笑顔。


それを見た真は目を閉じた。


もう何も言わなかった。


数週間後。


吸血鬼事件が始まった。


通勤中。


買い物中。


公園。


映画館。


駅前。


全国各地で奇妙な報告が相次いだ。


「なんだか腕がチクッとした」


「虫かな?」


「気のせいじゃない?」


誰も気づかなかった。


ナノレベルの針が皮膚を貫いたことを。


五千機のドローンが夜空を飛んでいたことを。


そして。


その血液データが膨大なデータベースへ登録されていたことを。


社長室。


巨大モニターに数字が表示される。


一万人。


三万人。


五万人。


七万人。


十万人。


血液サンプル。


適合可能性。


遺伝子データ。


候補者。


次々に解析が進んでいく。


霧島は眠らなかった。


寝る時間も惜しかった。


探したかった。


洋子を救えなかった自分だからこそ。


今度は救いたかった。


一人でも。


一人だけでも。


そして。


その日が来る。


夜明け前。


静まり返った社長室。


突然。


画面が赤く点滅した。


霧島は立ち上がった。


息が止まる。


震える指で画面を操作する。


データを確認する。


もう一度確認する。


間違いない。


見つけた。


ついに見つけた。


福島まどかを救える可能性のあるドナーを。


「……見つけたぞ」


声が震える。


目頭が熱くなる。


洋子には間に合わなかった。


でも。


今度は違う。


今度は救える。


そして数か月後。


骨髄移植は成功した。


福島まどかは生還した。


しかし同時に。


全国で起こった奇妙な採血事件も発覚する。


警察の捜査本部が設置された。


マスコミは騒ぎ立てた。


誰がやったのか。


なぜやったのか。


その答えを知る者はほとんどいない。


だが。


霧島蓮だけは知っていた。


自分が犯人であることを。


英雄になろうとしたわけではない。


正義を語る気もない。


ただ。


妹を救いたかった。


救えなかった。


だから。


他の誰かだけでも救いたかった。


その想いだけで走り続けた結果だった。


窓の外を見つめながら霧島は呟く。


「洋子……」


夜明けの光が東京の街を照らし始める。


その光の中で。


霧島蓮は初めて、自分が取り返しのつかない罪を犯したのだと実感していた。

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