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罪と英雄(SIN-HERO)  作者: 三川三山
第3部 霧島蓮編
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プロローグ 兄妹

群馬の山を吹き抜ける風は冷たかった。


空は高く、薄い雲がゆっくりと流れている。


その静かな墓地に、一人の男が立っていた。


霧島蓮(きりしま れん)。


巨大IT企業イデア社の社長。


数万人の社員を抱える企業の頂点に立つ男だった。


しかし今の彼は、ただの兄だった。


墓碑に刻まれた名前を見つめる。


『霧島洋子』


たった一人の妹。


そして、もう二度と会えない人。


蓮は静かに手を合わせた。


長い沈黙。


やがて震える声が漏れる。


「……ごめんな」


答える者はいない。


それでも言わずにはいられなかった。


洋子は長い間、白血病と闘っていた。


希望はあった。


骨髄移植。


適合するドナーさえ見つかれば助かる可能性があった。


だから家族は待ち続けた。


父も母も。


そして兄である蓮も。


だが。


待っていた奇跡は訪れなかった。


「どうしてだよ……」


蓮は拳を握る。


日本骨髄バンクの資料によれば、兄妹なら四人に一人は適合するという。


しかし。


父も。


母も。


蓮自身も。


誰一人として適合しなかった。


血縁者以外となれば確率はさらに下がる。


数百人に一人。


あるいは数万人に一人。


そんな奇跡を待ち続けたまま、洋子は静かに息を引き取った。


蓮は歯を食いしばる。


イデア社をここまで大きくした。


金もある。


技術もある。


権力だってある。


それなのに。


世界を変えることはできても、妹一人救えなかった。


その事実だけが胸を刺していた。


数日後。


蓮は個人資産から莫大な寄付を骨髄バンクへと行った。


だが心は少しも軽くならない。


どれだけ金を出しても。


洋子は戻らない。


そんなある日だった。


スマホが鳴った。


表示された名前を見て、蓮はわずかに表情を緩める。


山田真(やまだ まこと)。


学生時代からの先輩であり、親友だった。


通話ボタンを押す。


『よう、蓮』


いつも通りの声だった。


蓮は思わず苦笑する。


「なんだよ」


『元気なさそうだな』


「当たり前だろ」


『まあな』


しばらく沈黙が続いた。


そして真は、ぽつりと言った。


『蓮。人生ってのは冒険なんだ』


蓮は眉をひそめる。


また始まった。


昔から真はこういう男だった。


『洋子さんはさ』


真の声が少しだけ優しくなる。


『先に冒険へ出発したんだと思う』


蓮は何も言えなかった。


『だから俺たちまで立ち止まったら駄目だ』


静かな声だった。


だが、その言葉は不思議なくらい胸に染み込んだ。


『また歩こうぜ、蓮』


蓮は目を閉じる。


風が吹いた。


まるで洋子が背中を押してくれるような気がした。


「……ああ」


小さく答える。


「そうだな」


真の笑い声が聞こえた。


『その調子だ』


通話が終わる。


墓石を見つめながら、蓮はもう一度手を合わせた。


「洋子」


空を見上げる。


青空の向こうへ。


「俺はまだ冒険を続けるよ」


風が吹いた。


返事の代わりのように。


蓮はゆっくりと立ち上がった。


それが、すべての始まりだった。

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