第9話 夜明けの向こうへ
洞窟全体が震えていた。
ゴォォォォォォッ!!
無数の羽音。
五千機ものドローンが地下空間へ殺到してくる。
その音はまるで暴風だった。
いや。
暴風そのものだった。
核の周囲に集まっていた黒ずくめの男たちも異変を察知したらしい。
一斉に天井を見上げる。
そして。
悲鳴にも似た叫び声をあげた。
「キエエエエエエッ!」
「ギャアアアアアア!」
粒体生命体たちは混乱していた。
今まで経験したことのない攻撃だったからだ。
「始まるぞ……」
霧島が呟く。
真も黙って核を見つめる。
十年以上。
ずっとこの瞬間を待っていた。
先頭のドローンが核へ到達する。
そして。
激突。
ドオォォォンッ!
火炎が弾ける。
紅蓮の炎が核を包み込んだ。
直後。
洞窟中に轟く絶叫。
「キエアイイイイイイイイッ!!」
核が叫んだ。
初めてだった。
感情を見せたのは。
恐怖。
苦痛。
怒り。
全てが混ざった絶叫だった。
そして第二波。
第三波。
第四波。
第五波。
次々とドローンが突撃する。
爆発。
爆発。
爆発。
爆発。
まるで隕石雨だった。
獄炎の豪雨だった。
「すごい……」
社員の一人が呆然と漏らす。
真も同じ気持ちだった。
五千機。
数字では理解していた。
だが現実に見ると圧倒的だった。
核の表面が崩れていく。
黒い粒体が焼ける。
蒸発する。
消滅する。
「やったか……!」
誰かが叫んだ。
しかし。
真は首を振る。
「まだだ」
核は生きていた。
焼け焦げた身体から無数の触手が伸びる。
周囲の黒ずくめの男たちを掴む。
吸収する。
取り込む。
「なっ……!?」
ボロボロになった身体が修復していく。
傷が埋まる。
体積が戻る。
「化け物かよ……」
霧島が顔を引きつらせた。
だが。
攻撃の方が速い。
ドローンが来る。
次々と。
終わりなく。
容赦なく。
核は再生する。
ドローンは燃やす。
再生する。
燃やす。
再生する。
燃やす。
まるで根競べだった。
時間の感覚がなくなる。
何分経ったのか。
誰にも分からない。
そして。
最後の一機。
五千機目。
真の人生が詰まった最後のドローンが核へ突撃する。
ドォォォォォンッ!!
巨大な火柱。
衝撃波。
熱風。
静寂。
誰も動かなかった。
やがて。
炎が消える。
煙が晴れる。
そこにいた。
核。
まだ。
生きていた。
「そんな……」
誰かが呟く。
直径10メートルだった球体。
今は。
3メートルほどしかない。
しかし確かに存在していた。
真も霧島も言葉が出なかった。
勝ったと思った。
終わったと思った。
だが違った。
核は残った。
ところが。
不思議なことが起きる。
残っていた黒ずくめの男たちが核へ近づいていく。
自らの身体を捧げるように。
だが。
何も起きない。
吸収されない。
修復されない。
男たちは困惑したように立ち尽くす。
やがて。
一体。
また一体。
身体が崩れ始めた。
黒い液体になる。
粒になる。
そして。
床へ降り積もる。
まるで黒い雪だった。
洞窟内の全ての床は黒い粒体で埋め尽くされた。
「再生能力は……」
真が呟く。
「失ったんだな」
霧島が続けた。
完全勝利ではない。
だが。
侵略者たちの王は致命傷を負った。
人類は初めて反撃に成功したのだ。




