第4話 ロボット研究室
博樹が近づくと、HEROの瞳がわずかに光を宿した。
擬態モードに移行する準備が整っている証拠だ。
「今日は昨日の学会と同じ姿でいこうか。銀髪、青い瞳、白いスーツの青年だ」
「了解しました。擬態を開始します」
HEROの身体が、波紋のように揺れた。
ナノマシンが一斉に動き出し、金属の肌が柔らかい人肌へと変化していく。
銀色の髪が生まれ、青い瞳が開き、白いスーツが身体を包む。
わずか数秒で、そこには“人間の青年”が立っていた。
「完璧だよ、HERO」
「ありがとうございます。博樹のイメージ通りにできました」
二人は研究室を出て、隣の教授室へ向かった。
ドアをノックすると、福島教授が学生たちに囲まれながら囲碁を打っていた。
「福島教授!」
「おう、昨日はご苦労だったな!」
教授は碁盤に視線を走らせ、白石をパチッと置いた。
対局していた学生が肩を落とす。
「まいりました……もう手がありません」
「がははは!また私の勝ちだな!」
「教授、強すぎですよ!」 学生たちが笑いながら抗議する。
学生たちはHEROを見ると、ニヤリと笑った。
「HERO。今度は君が相手をしてやれ」
「わかりました。教授、置き石をお好きなだけどうぞ」
「ばかにするな。置き石など1子もいらん!」
「承知しました。では、私は黒石の先手をいただきます」
対局が始まった。
教授は序盤こそ善戦したものの、HEROの読みは人間のそれを遥かに超えていた。
数分後――碁盤の三分の二以上が黒石で埋まり、残された空白の目が“スマイル”の絵になっていた。
「なんじゃこりゃ……?」 教授は目を丸くした。
HEROは胸を張って笑う。
「次は九子の置き石をしてくださいね。がははは!」
学生たちは大喜びし、研究室は笑い声で満たされた。
「まいった!おまえ、容赦ないやつだなぁ」 教授は感服したように肩を落とす。
博樹は、その光景を見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。
HEROの向こう側に、まどかの姿が浮かぶ。
彼女が作ったAIは、今日も人間のように笑い、人間のように勝ち、人間のように誇らしげだった。




