第3話 まどかへの報告
翌日、博樹は、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じながら、まどかの入院する病院へ向かった。
昨日の学会は大成功だったと、その報告を、まどかに一番に伝えたかった。
病室のドアをそっと開けると、白い光に包まれたベッドの上で、まどかが穏やかに微笑んだ。
「博樹君。来てくれたんだね」
その声だけで、胸が少し跳ねる。
博樹は、気持ちを悟られまいと、いつもより背筋を伸ばした。
「昨日の学会、成功したよ。君のAIのおかげさ!」
言った瞬間、自分でも“格好つけすぎたとわかる。
まどかはくすっと笑った。
「学会の成功、おめでとう」
その優しい言葉に、博樹はさらにぎこちなくなった。
気まずさを紛らわせるように、話題を変える。
「白血病の治療は……どうなの?」
まどかは少しだけ視線を落とした。
「それがね、あまりうまくいっていないみたいなの。骨髄移植のドナーもまだ見つからないし……」
「大丈夫さ。きっとすぐに見つかるよ」
励ますつもりだった。
けれど、まどかは小さく首を傾ける。
「そうかな……」
そのまま、二人の間に静かな空気が落ちた。
窓から差し込む光が、病室の白い壁に淡く揺れる。
博樹は指先を組み直し、まどかはシーツの端をそっとつまむ。
互いに何か言いたいのに、言葉が形にならない――そんな沈黙だった。
やがて博樹は、深く息を吸って言った。
「根拠のないことを言って、ごめんなさい」
まどかは顔を上げ、柔らかく微笑む。
「いいえ、大丈夫よ。そのかわり……」
「そのかわり?」
「治ったら、星を見に行きたい」
その言葉は、病室の空気を一気に明るくした。
「よし、星を見に行くぞー!」
「星を見に行くぞー!」
二人の声が重なり、まどかは嬉しそうに笑った。
博樹は、群馬県高山村の《ぐんま天文台》へ連れて行くことを約束し病室を後にした。
午後、博樹は研究室に戻り、肘掛椅子型クレードルに座るHEROを見つけた。
ロボット形態のまま、静かに充電を終えていた。
また、前日までの記憶のバックアップも終えていた。
HEROを起動するには、博樹の肉声による“5つの言葉”が必要だ。
「アテンション」 「オーマイゴッド」 「クッキー」 「いつくる」 「できるだけ早く」
すると、HEROの瞳が淡く光り、ゆっくりと顔を上げた。
「クッキーはどれくらい甘い? 私も食べたい」
それが、正常起動の合図だった。
博樹は思わず笑った。
HEROのこういうところが、たまらなく愛おしい。




