第2話 ロボット学会
その頃――エボルブが知能爆発の渦中にある同じ時間帯。
日本科学技術大学院大学の大講堂では、ロボット学会が熱気に包まれていた。
壇上に立つのは、博士課程二年・山田博樹。
スポットライトに照らされた彼の横には、純白の躯体を持つ自立歩行型ロボット《HERO》が静かに佇んでいる。
「では、次に――HEROの擬態機能について説明します」
博樹の声がホールに響く。
観客席には研究者、企業技術者、学生たちがぎっしりと詰めかけていた。
皆、HEROの存在に期待と好奇心を隠しきれない。
HEROはフィジカルAI――姿勢制御、環境認知、動的制御をAIが自律的に行う最新型ロボットだ。
そのAIを作り上げたのは、同じ研究室の仲間であり、博樹が想いを寄せる女性――福島まどか。
本来なら、二人でこのステージに立つはずだった。
だが、まどかは今、白血病の治療のため入院している。
だからこそ、博樹は今日の発表を絶対に成功させたかった。
「HERO、擬態モードに移行」
博樹が指示すると、HEROの胸部に収納されたコンピューターが静かに起動し、頭部と腹部に格納されたナノサイズのロボットが一斉に動き出す。
金属の肌が波打つように変形し、銀髪が生まれ、青い瞳が開く。
白いスーツが身体を包み、わずか数秒で“青年”がそこに立っていた。
会場がどよめいた。
「……人間だ……」 「いや、ロボットだろ……?」 「擬態の精度が高すぎる……!」
拍手が一気に広がり、ホール全体を揺らした。
博樹は胸の奥が熱くなるのを感じた。 まどかが作ったAIが、今、世界の前で輝いている。
発表後には記者会見が行われた。
記者たちは次々に質問を投げかける。
「HERO、あなたが今、一番やりたいことは?」
HEROは少し考えるように視線を上げ、柔らかい声で答えた。
「人を幸せにしたいです」
その一言に、会場が静まり返った。
ロボットの口から出た言葉とは思えないほど、純粋で、まっすぐな言葉だった。
博樹は誇らしさを隠せなかった。
まどかのAIが、こんなにも人間らしい願いを語るなんて。
「HEROの進化したAIは、福島まどかさんの研究成果です。彼女がいなければ、今日の発表はありませんでした」
博樹は記者たちにそう強調した。
まどかへの想いが、自然と声に滲んでいた。




