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罪と英雄(SIN-HERO)  作者: 三川三山
第2部 真編
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第7話 孤独な戦士

山田真が姿を消してから一年。


彼は死んだわけではなかった。


だが、生きているとも言い難かった。


群馬県。


埼玉県。


長野県。


身元を隠しながら各地を転々とし、ひたすら研究と実験を続けていた。


目的は一つ。


毛無峠地下に潜む核を消滅させること。


それだけだった。


真は古びたアパートの机に広げた設計図を見つめていた。


スタンガンで倒せるのは末端個体だけ。


核には届かない。


ならば必要なのは火力だ。


圧倒的な火力。


そして人間が近づかずに攻撃できる手段。


何枚目かわからない設計図を握り潰す。


「違う……これじゃ足りない」


床には失敗した案が山になっていた。


ロケット。


無人兵器。


有線爆弾。


どれも決定打にならない。


核は再生能力が高すぎる。


一発の威力では足りない。


必要なのは連続攻撃だ。


波のように。


休む間もなく。


何千発も。


執拗に。


燃やし続ける攻撃。


その時だった。


真の脳裏に昔の記憶がよみがえる。


毛無峠。


青空。


ラジコングライダー。


自由に空を舞う小さな機体。


「……飛べばいいのか」


真が顔を上げる。


ドローン。


当時はまだ一般的な呼び名ではなかった。


だが考え方は同じだ。


小型飛翔体の群れ。


数では核を圧倒できる。


「これだ」


真は立ち上がった。


目に光が宿る。


それから設計が始まった。


蚊を思わせる細長い機体。


内部にはガソリンを積む。


攻撃方法は単純。


核へ突撃。


爆発。


燃焼。


そして次の一機。


さらに次の一機。


休みなく続く炎の波。


真は三日三晩眠らず設計図を書き続けた。


そして完成する。


核討伐用自爆ドローン。


だが問題があった。


作れない。


真一人では。


必要な数は数千機。


個人で製造できる規模ではなかった。


真は日本中を探した。


倒産寸前の町工場。


航空部品工場。


電子機器工場。


数えきれないほど訪問した。


そして二年後。


埼玉県鶴ヶ島市。


ある工場に辿り着く。


規模は小さい。


しかし技術力は高い。


そして経営は苦しい。


理想的だった。


真は姿を見せなかった。


差出人不明。


設計図。


現金十億円。


納品先。


それだけを書いた荷物を送った。


普通なら詐欺を疑う。


だが工場は受けた。


十億円という現実があったからだ。


半年後。


真の元へ連絡が届く。


納品完了。


巨大な倉庫。


埼玉県内の工業地帯。


そこで真は光景を目にした。


五千機。


整然と並ぶ自爆ドローン。


まるで軍隊だった。


「ようやくここまで来たな」


そう呟いた時。


背後から声がした。


「相変わらず派手なことをやるな」


聞き覚えのある声。


真は振り向いた。


そこにいたのは。


霧島蓮だった。


「蓮……」


「久しぶりだな」


霧島は笑った。


イデア社の現社長。


そして。


数少ない真の理解者。


高校の後輩。


ラジコングライダー仲間。


共に毛無峠へ何度も通った友人。


「お前、どうして」


「知ってたからな」


霧島はドローンを眺める。


「真が姿を消した理由も」


「……」


「宇宙人の話も」


「誰に聞いた?」


「愛(めぐみ)さんだよ」


沈黙。


普通なら笑うだろう。


頭がおかしくなったと思うだろう。


しかし霧島は違った。


「俺は信じている」


その一言だけだった。


真は苦笑した。


「実物も見てないのにか」


「ああ」


「普通は信じないぞ」


「普通じゃないから友達なんだろ?」


霧島が笑う。


真も少しだけ笑った。


久しぶりだった。


心から笑えたのは。


その後。


真は計画を全て話した。


毛無峠。


核。


粒体生命体。


家族を離れた理由。


十億円。


全てを。


話が終わる。


霧島は静かに頷いた。


そして言った。


「協力する」


即答だった。


「正気か?」


「たぶん正気じゃない」


霧島は笑う。


「でもな」


そしてドローンを見上げた。


「少年の頃、毛無峠で飛ばしたラジコンより面白そうだ」


真は思わず吹き出した。


「お前なあ……」


「人生は冒険だ!」


霧島が胸を張る。


高校時代からの口癖だった。


「俺の座右の銘を忘れたか?」


その日から。


計画は二人のものになった。


倉庫契約。


資材調達。


輸送。


隠蔽工作。


資金洗浄。


真だけでは不可能だった仕事を霧島が引き受ける。


現役社長だからできることだった。


一方その頃。


博樹は高校二年生にして東京大学へ飛び級入学していた。


父と同じ機械情報工学科。


そしてロボット研究室。


そこで頭角を現し始める。


霧島は時折その報告を真に伝えた。


「順調らしいぞ」


「そうか」


真は短く答える。


だが。


その目だけは優しかった。


「会いにいかないのか?」


ある日。


霧島が尋ねた。


真は首を振った。


「だめだ」


「なぜ」


「俺が近づけば危険だからだ」


博樹の顔が浮かぶ。


愛の顔も。


会いたい。


だが会えない。


守るためには。


そして数年後。


倉庫に並ぶ五千機のドローンが一斉に浮上した。


電子音。


プロペラ音。


まるで蜂の大群。


壮観だった。


ついに。


完成したのだ。


侵略者討伐作戦が。


「準備はできたな」


霧島が言う。


真はゆっくり頷く。


窓の外を見る。


その方向の遥か先には群馬県。


毛無峠。


核。


全ての始まりの場所。


こうして。


十年以上にわたる孤独な戦いは終わりを迎える。


次に始まるのは。


山田真と霧島蓮による。


人類初の反撃だった。


そしてその戦いは。


後に二人の間で「群馬決戦」と名付けられることになる。

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