プロローグ 星の彼方から来た者
それは、宇宙をさまよう生命だった。
故郷の星は、もう存在しない。
寿命を迎えた恒星が膨張し、その果てに大爆発を起こした時、彼らは宇宙へと放り出された。
無数の同胞たちと共に。
行き先を選ぶことなどできない。
ただ爆発によって与えられた速度と方向。
その運命に従って漂い続けるだけだった。
当時の彼らは巨大だった。
身長はおよそ三千五百キロメートル。
地球の衛星である月と同程度の大きさを持つ超生命体。
だが、その旅は永遠にも思えるほど長かった。
やがて彼らは小惑星帯へと突入する。
無数の岩石と衝突するたびに肉体は削られ、砕かれ、失われていった。
それでも飛び続ける。
止まることはない。
長い長い放浪の果て。
彼らは一つの青い惑星へとたどり着いた。
後に人類が地球と呼ぶ星だった。
しかし、その生命体には天敵が存在した。
炎。
彼らは無数の粒体が集まって構成された生命だったため、高熱に極めて弱かった。
地球の大気圏へ突入した瞬間、身体が燃え始める。
生命体は本能的に危険を察知した。
巨大な肉体を維持することを諦める。
身体を構成する粒体をばらばらに解き放ち、自らを霧のように分散させた。
黒い粒子は大気中を漂いながら黒い雪のように地表へ降り積もる。
たどり着いた場所では火山活動が活発だった。
噴火。
堆積。
埋没。
それを何度も繰り返しながら、粒体たちは地層の奥深くへと眠っていった。
そして半世紀後。
別の生命体が再び地球へ飛来する。
かつて小惑星帯で衝突した際に分離した個体だった。
小惑星の破片をまとったまま宇宙を飛び続けていたのである。
生命体の直径は約三キロメートル。
周囲を覆う小惑星は三十メートルほど。
青い惑星の重力がそれを捕らえた。
轟音。
灼熱。
大気との激しい摩擦で生命体の身体は再び燃え始める。
耐えられない。
生命体はまたしても身体を粒体へと分解した。
黒い粒子が風に乗り、ふわりと大地に舞い降りる。
しかし今回は違った。
小惑星の中心部に守られていた核が残ったのである。
小惑星は火の玉となって燃え尽きた。
それでも直径三メートルほどの核の塊が地表に存在し続けた。
それは生きていた。
意識を持っていた。
そして考えることができた。
核は自らの周囲に散らばった粒体を利用し、この星で最も支配的な生物を模倣させる。
人間。
その姿を借りて情報収集を始めようとした。
だが、その時の核は小さすぎた。
能力を十分に発揮できなかったのである。
それから三十年。
核は直径十メートルほどまで成長した。
ようやく活動を開始できる段階に達したのだった。
誰にも知られることなく。
静かに。
地球征服という、気の遠くなるような計画を胸に秘めながら。




