第27話 群馬決戦
群馬県――黒ずくめの男たちが狙う地下資源の地。
博樹とHEROは、ついにその地へ向かう決断をした。
二人は警視庁へ向かい、 多胡刑事に群馬へ行くことを伝えた。
刑事は深刻な表情で言った。
「危険だぞ。黒ずくめの男たちは液体になる。銃も効かない。だが……君たちなら、何か掴めるかもしれない」
多胡刑事は、群馬県警との連携を約束してくれた。
◆ 毛無峠へ
翌日、博樹とHEROは警察官の運転するパトカーで毛無峠に向かった。
一緒に行ってくれるのは、長野原警察署の田口警部他、4名の警察官だ。
2台のパトカーが峠に近づくにつれ、霧が濃くなり、視界が白く染まっていく。
「……来るよ」 HEROが言った。
超聴覚が、霧の奥でうごめく音を捉えていた。
「黒ずくめの男たちだ」
博樹は息を呑んだ。
霧の中から、黒い影がゆっくりと姿を現した。
黒いスーツ。黒いサングラス。無表情。
だが――その体は、人間のものではなかった。
影はゆらりと揺れ、次の瞬間、液体のように崩れ落ちた。
地面を黒い水が流れ、また人型へと戻る。
「……化け物だ」 博樹は震えた。
HEROは一歩前に出た。
「僕がやる」
黒ずくめの男たちが一斉に襲いかかってきた。
液体化し、高速で地面を滑り、HEROの足元へ迫る。
HEROは跳躍し、空中で体をひねりながら避けた。
「動きが速い……!」 博樹が叫ぶ。
黒ずくめの男たちは、液体化と人間形態化を繰り返しながら、HEROを包囲した。
HEROは超視覚で動きを読み、超聴覚で敵の振動を解析し、一体ずつ攻撃のタイミングを見切った。
「粒子の集合体…… やっぱりナノマシンじゃない。危険な物質だ」
HEROは拳を構えた。
そして、液体の敵がHEROにとびかかってきた時に、HEROが右拳でパンチを繰り出すと、そこから、全てのナノマシーンが勢いよく飛び出していった。
HEROの右拳から広がったナノマシーンの球体は一体の敵を液体のまま閉じ込めた。
すると、他の敵は液体化してどこかに流れ、逃げて行った。
HEROの体はナノマシーンで包まれた右拳以外が無機質な黒い塗装型太陽電池に包まれたロボットになっていた。
「HERO、その捕獲方法は自分で考えたのかい?」 博樹は驚愕した。
「初めから知っていた気がする。こうやれば、捕まえられるというデータが流れてきた。でもこれ、どうしよう。後のことを考えていなかった。」とHEROは言った。
田口警部が言った「そのまま長野原署までいけるかい?」
「はい。大丈夫です。」
帰りの道では田口警部がパトカーを運転し、助手席に博樹が乗っている。
そして、後部座席には大きな球形の右拳を両ひざに挟んで横向きに座っている黒いHEROがいた。
他の警察官たちはもう一台のパトカーに乗って博樹たちのパトカーを先導した。
長野原警察署に着くと、農家が使う黄色い農薬用のポリエチレンタンクが用意されていた。
そういえば、先ほどまで博樹とHEROがいた毛無峠は嬬恋村にある。
嬬恋村はすごくおいしい嬬恋高原キャベツが有名で、キャベツ農家がたくさんあるのだったな。
博樹はそんなことを考えているうちに、HEROが右拳を楕球形に延ばしてタンクの口に突っ込んだ。
警察官がタンクの蓋を被せると、HEROは敵が逃げないようにタンクと蓋の間をナノマシーンでふさぐようにして手を抜いていった。
無事に蓋ができて、蓋の周りにシーリングを施すと、敵をタンクに閉じ込めることに成功した。
そして田口警部は未知の敵を尋問した。
「おい、生きているか?」
「・・・・・・・・」
「息ができるか心配なんだが、大丈夫か?」
「・・・・・・・・」
「人間形態に戻れるか?」
「・・・・・・・・」
「では、科学捜査研究所に送るとするか。そこでは、おまえを沸騰させてみたり、凍らせてみたり、凍ったお前を割ってみたり実験するんだよな。」
「・・・・・・・・」
「高圧電流をかけてみたりもするよな?」
「ええっ?」
「高圧電流をかけるんだよ!」
「勘弁してください」
「いや、いや、今、ここで高圧電流をかけてみようかな」
「ゲゲー。わかりました。なんでも答えますからそれだけはやめてください。」
「何でも話すなら、スタンガンはしまっておくよ。」
「ヒィー!スタンガンなんかくらったら、死んでしまいます。どうぞ、なんでもお聞きください。」
「お前たちはなんなのだ?」
「はい。我々は遥か昔、宇宙から来た粒体だけの存在でした。
でも、長い時間をかけて、私たち粒体がたくさん集まって高密度な核ができた時に、周辺にあった粒体は核の能力によって形状変化をすることができるようになりました。
核は粒体を集合させ、自由に姿を変えられる能力を与える能力があります。
そして、仲間を増やしていきました。
核は仲間を吸収して大きくなることもできます。
でも、核は熱に弱く火山活動による熱を受けることを避けるために地下深くに隠れました。
隠れた先にはまだ能力を与えていないたくさんの粒体も一緒に連れていきました。
私たちのように先に能力を与えられたものは地上に残り、核の計画、すなわち世界征服の準備を進めていました。
ある時は液体に、ある時はロボット形態に、ある時は人間形態になってそれぞれの役割を進めていました。
漫才コンビになって国民を洗脳しているものもいます。
ここにいる私は、人間社会に溶け込んで生活をする役割を与えられていましたので、人間の料理が大好きなこともあって料理人を目指しております。
全国食べ歩きもしました。
最近ではあまりにも美味しすぎて、その店で働いて、味の秘密を盗んだこともあります。
どうもすみません。」
「それって、横浜の食堂か?」 博樹が聞いた。
「そのとおりです。1日だけだったけれどもアルバイトをして味の秘密を盗みました。申し訳ありません。」
「そこに行ったのは美味しい料理の秘密を探るためだけに行ったのか?」
「はい。私たちが行きました。ああ、私たちとは、人間形態に変身した粒子の集合体である私たちのことです。今、こうして捕まっている全ての粒子です。恐縮至極に存じます」
博樹は伯父や母が狙われたのではないことがわかって安心した。
いや、大事なレシピを盗まれているじゃないか!
田口警部がさらに質問する。
「他にはどんな役割の者がいるんだ?」
「人間と融合して高圧電流という弱点をなくし、強力な兵隊になる役割があります。すんまへん」
「お前たちのリーダーは誰なんだ?」
「はい。リーダーは先ほどお話しした私たちが”核”と呼んでいる存在です。ごめんやす」
「そいつは、おまえを捕まえた場所の近くにいるのか?」
「はい。地化洞窟の一番奥にいます。ごめんやで」
「おまえ、弱点は高圧電流だったよな?」
「はっ、はい。堪忍な」
「では、その核とやらの弱点はなんだ」
「炎などの高熱です。火炎放射器などには弱いかと思います。すまんばい」
「それから、国民を催眠にかけて意識を操ろうとしているな。」
「はい、ごめんなし」
「その目的は何なのだ」
「はい。我らが融合して高圧電流という弱点を克服した強い固体になるため融合する依り代にします。それから、社会に存在する本物の人間になりすまして、人間界に溶け込み、生活する計画もあります。政治家や国家元首にも融合して国の乗っ取りをすすめる所存であります。陳謝いたします」
「最後に聞く。お前らの言う地下資源とはなんだ?」
「それは、まだ力を与えられていない粒子たちと、私たちよりも前に地球にきた粒子たちです。彼らは、ボーっとしていて、気が付いたら厚い地層の下にいたのだそうです。核が地下に隠れた過程で発見いたしました。めんたし」
「山田真という人間を知らないか?」 博樹が聞いた。
「私は全国を旅していましたので、そういう方は知りません。こらえとっちゃんなっしぇー」
最後に田口警部が冷たく言った。
「わかった。こいつを科学捜査研究所に連れていけ。」
「ごしゃがねぁんでたんえや」
捕獲された黒ずくめの男は全国を回って美味しいものを食べたり、レシピを盗んだりしていましたから、いろいろな地方の言葉で謝っているわけであります。
めんたし(山口県や島根県(出雲地方)「ごめんなさい」)
こらえとっちゃんなっしぇー(福岡県「ごめんなさい」)
ごしゃがねぁんでたんえや(東北地方(特に津軽弁など)「怒らないでくださいね」)




