第23話 吾妻地域探訪
翌朝。 三人はコテージを出て、草津温泉へ向かった。
道の駅・中山盆地から車で1時間半程走ると、湯けむりが立ち上る草津温泉の入口が見えてくる。
「ここが草津温泉……!」まどかは窓の外を見て目を輝かせた。
草津温泉の入口で湯けむりを立ち上げている「温泉門」。
これは足湯と立体交差点を兼ねたユニークな施設だ。
足湯に浸かる観光客たちがお互いにスマホを構えて写真を撮っているのが楽しそうだ。
博樹は温泉門の無料駐車場に車を停めた。
温泉門には、3筋の樋から足湯にかけ流される温泉の滝があり、足湯に浸かりながらその滝をずっと見ていられる。
なにか、滝行をしているような気分になるから不思議だ。
博樹とまどかが並んで足湯に浸かっていると、HEROが二人の写真をウインクで撮影してくれた。
なんか、かっこいい。
そして、温泉門をくぐり、両側に素敵なお店が建ち並ぶ美しい道路のペーブメントを徒歩で下って行くと湯けむりを放ち、湯の花の結晶を蓄えている湯畑があった。
草津の湯は温度が高く、加温する必要がない。
むしろ熱すぎるため、湯もみで温度を下げて入る。
そのため、湧いた湯の効能を享受できることが観光客に大人気なのだ。
湯畑の周りの歩道では、若いカップルたちが楽しそうに歩いていた。
博樹は、自分たちもそのうちの一組であることに気づいていなかったが、HEROは二人の前を歩き、何度も二人の写真撮影をした。
裏草津には「顔湯」というスポットもあり、まどかは興味津々で覗き込んでいた。
顔湯は湯けむりを顔にあてる温泉であり、両側に顔を入れる口がある。
だから、博樹はまどかとは反対側の口から顔を突っ込んで言った。
「世界一、愛してる」
「わたしもー」
HEROは二人が顔湯を楽しんでいる間に、身長が140cmの男の子に変身した。
二人が顔湯から顔を出した時に、HEROが二人に抱き着いて言った。
「ぼくも、二人のことが世界一、大好きだよー」
それは、もう誰から見ても普通の三人家族の姿だった。
「教授と研究室に温泉饅頭を買っていこう」 博樹が言うと、まどかは嬉しそうに頷いた。
「温泉饅頭が茶色になった起源は群馬県なんだよ。それと日本で最初の温泉記号があるのも群馬県なんだって」
「知らなかったわ。また、デート先の候補が増えちゃった」
◆ 志賀草津道路から毛無峠へ
草津を後にし、三人は志賀草津道路をドライブした。
草津白根山の雄大な景色を横目に、万座温泉を通り過ぎ、さらに山道を進む。
やがて、左へ曲がってしばらく進むと――そこは毛無峠だった。
博樹は車を停めて、毛無峠を三人で歩いた。
少し肌寒い。
峠には、ラジコン・グライダーを飛ばす人々が大勢いた。
大型のグライダーは一機50万円ほどするらしく、 必ず戻ってくるように飛ばすのが醍醐味だという。
「すごい……本当に飛んでる」 まどかは風に髪を揺らしながら見入っていた。
峠を挟んで長野県側と群馬県側のどちらかに上昇気流がある時だけ飛ばせるらしい。
両方から風が吹き上がっていると乱気流になって飛ばせないのだとのこと。
歩いていると、群馬県の行政界標識のところについた。
古びた白い金属の板には「群馬県」の青文字が書いてあり、長野県と群馬県の県境であることを表している。
隣には「この先危険につき立ち入り禁止」の看板。
そして―― その先の群馬県側は霧に包まれ、何も見えなかった。
「これがSNSで群馬県が“グンマー帝国”と言われるようになった由来の看板なんだよ」 博樹が説明すると、まどかは、近くの人に頼んで写真を撮ってもらった。
三人の笑顔、標識、看板、谷を覆う霧。
その写真は、後に三人の宝物になる。
「ぐ・ん・ま・け・ん、だ・い・す・きー」まどかが群馬県側の谷に向かって言った。
◆ 万座温泉での気配
帰りに万座温泉へ寄り、 有名な観光ホテルの露天風呂で日帰り温泉を楽しんだ。
男女の内湯は別になっているが、露天風呂の一部は混浴になっていて男女とも湯あみ着を来て入ることができる。
博樹とまどかは湯あみ着を着て、 山々を眺めながら並んで湯に浸かった。
「冬はここ、スキー場になるんだよ」 博樹が言うと、
「また来たいね」 まどかは微笑んだ。
「スキーできるの?」
「スノボに挑戦したいの」
その頃―― HEROはホテル裏の展望台からスキーリフトの上の方を見ていた。
超視覚が、 山でうごめく黒ずくめの男たちを捉えた。
液体のように揺れ、 人型に戻る影。
「……また現れた」
しかし、 まどかがいる今は動けない。
HEROはその映像を記録し、 静かに目を閉じた。




