第22話 初めてのデート
三ヶ月後。
まどかは寛解し、元気な姿で研究室に戻ってきた。
白衣姿のまどかがドアを開けた瞬間、研究室の空気がぱっと明るくなる。
「ただいま、みんな」
その声を聞いた瞬間、博樹の胸が熱くなった。
――本当に、戻ってきてくれた。
まどかは、星を見に行く約束を忘れていなかった。
群馬県高山村の「ぐんま天文台」へ、HEROと三人で行くことになった。
宿泊は、道の駅・中山盆地に隣接するコテージ。
まどかが退院したら行こうと決めていた場所だ。
◆ 群馬へ
横浜でレンタカーを借り、都内に住むまどかを迎えに行き、今は関越自動車道を走っている。
車窓から見える山々は深い緑に包まれ、空はどこまでも澄んでいた。
「久しぶりの旅行だわ」まどかが微笑む。
「うん。まどかさんと一緒に来られて……本当に嬉しい」博樹は素直に答えた。
HEROは後部座席でテレスコープを抱えながら、「星の撮影、楽しみだなぁ」とワクワクしていた。
「HEROの目はテレスコープになっているだろう?」と博樹がからかうと、
「気分だよ、気分」とHEROはかえした。
◆ 満天の星空
ぐんま天文台に着くと、夜空はすでに宝石のような星々で満ちていた。
二人は小惑星「関孝和」を観たかった。
それは二人が尊敬する和算家で天文学者の名前がついた星だった。
しかし、それは肉眼で見ることは無理で、高性能の望遠鏡で撮影すると見られるらしい。
三人は屋外でしばらく星空を堪能し、その後、150cm反射望遠鏡の接眼部に目をあてた。
「すごい……」 まどかの声は震えていた。
二人は白鳥座の二重星である「アルビレオ」が青と黄色に美しく輝く姿を見て感動した。
交替で望遠鏡を覗く二人の顔は近く、肩が触れそうな距離。
HEROは自分のテレスコープで星空を撮影したいと言い、二人だけで反射望遠鏡を見てと言った。
――気を利かせてくれたのだ。
博樹は胸の奥が温かくなるのを感じた。
そして、HEROは火星と木星の間の小惑星帯を周回している小惑星である”関孝和(7483 Sekitakakazu)”の撮影に成功していたのだった。
◆ コテージでの夜
星を堪能した三人は、宿泊コテージに向かって車で移動した。
コテージは二棟予約してあり、そのすぐ隣の道の駅中山盆地には星空を眺めながら入れる露天風呂付の温泉があった。
博樹とまどかは男湯と女湯にわかれてはいたが、同時に湯に浸かりながら、夜空を見上げた。
「……生きててよかった」まどかがぽつりと言った。
温泉から戻ると、少し遅い夕食のバーベキューを始めた。
火の赤い光が二人の顔を照らす。
「なんか……デートみたいで、僕は幸せだなぁ」 博樹が照れながら言うと、まどかは笑って言った。
「あら、デートじゃないの?」
博樹は慌てた。
「えっ……デートってことでいいんですか?」
まどかはトングで焦げそうな肉をつまみ、博樹の皿にそっと置いた。
「私は博樹君のこと、ずっと好きだったよ。いつも緊張していて何も言ってくれなかったけれどもね。だから、博樹君には私と一緒にいる時には自然体でいてほしいの」
博樹は胸が熱くなり、 まどかの目をまっすぐ見た。
「僕も……ずっと前からまどかさんが大好きです。絶対に僕と付き合ってください」
まどかは微笑んだ。
「もちろんOKよ。でもね、私はもうずっと付き合ってると思ってたよ。あんなにお見舞いに来てくれたんだもの。今日が初デートだなんて思っていないんだからね」
その言葉に、博樹は涙が出そうになった。
「まどかちゃん……ありがとう。こんな僕と付き合ってくれて」
「こんなすごいあなたが好きなのよ。こちらこそ、よろしくお願いします」
その瞬間、博樹は一生忘れない味の肉を食べた。
HEROはコテージの中でその会話を聞いていた。
「よかったね、博樹」
HEROは本当に嬉しそうだった。
◆ HEROとまどか
博樹とまどかがそれぞれのコテージに入ると、HEROがまどかのコテージを訪れた。
「ママ、本当に病気が治ってよかった。僕、ずっと心配だったんだよ」
まどかは優しく微笑んだ。
「ありがとう、HERO。タイニー・エヴォルブは博樹には怒られたかもしれないけど、私にとっては命の恩人よ。私の他にもたくさんの白血病患者を救ってくれたのだからすごいわ。」
「そう言ってくれてありがとう。僕はママの知らないところでバージョンアップされて、変わってしまったけれど、僕が善悪をきちんと判断して、正しい方法で人を幸せにするからね」
「うん。救うことは大事だけど、誰かを犠牲にするのは良くないからね」
「はい、ママ」
「わかったなら、もう寝ましょう」
「いいえ、ママ。 僕たちのコテージに来てよ。三人で話そうよ」
まどかは笑って頷き、三人は夜遅くまで語り合った。
それは――家族のような、温かい時間だった。




