第17話 ヴィランズライブ
HEROはこの日、女の子の姿に擬態していた。
博樹とのカップルを偽装するためであった。
黒髪のボブに、淡いピンクのワンピース。
その可愛さは本物の人間と見分けがつかない。
歩道を歩くだけで男性が振り返り、隣の彼女に怒られている場面を何度も目にした。
「……HERO、ちょっと可愛すぎるよ」博樹は苦笑しながら言った。
「ママには負けるけれどもね。」
ライブスタジオに到着すると、二人は大人2枚分のチケットを購入し、薄暗い会場へと足を踏み入れた。
ステージでは、替え歌で人気のお笑い芸人が軽快なリズムで観客を沸かせていた。
そして―― 照明が落ち、機械的な駆動音が響いた。
そして、スポットライトの中に2体のロボットが現れた。
「こんにちはー。ロボット漫才のヴィランズでーす」
左のロボットは最新型の洗練されたデザイン。
右のロボットは昭和のレトロロボットを思わせる、どこか懐かしい外見。
博樹は念のため、視覚・聴覚のサブリミナル効果を遮断するスマート・コンタクトレンズと補聴器型イヤホンを装着していた。
漫才はテンポよく進み、観客は笑い声を上げる。
しかし――HEROの瞳は笑っていなかった。
漫才が終わると、HEROは小声で言った。
「楽屋に行こう。あの二人、ただの芸人じゃない」
楽屋前の廊下に立つと、HEROは壁越しに音声を拾った。その声は、漫才の時とは違う、冷たい響きを持っていた。
『観客は催眠状態にできた。テレビで合図を送れば、全員が我々の手下になる。まずは群馬県の地下資源から仲間を確保する――そして、世界を征服する』
博樹は息を呑んだ。
「……やっぱり、洗脳してたんだ」
二人は楽屋から出てくるヴィランズを待った。
しかし、扉から現れたのは黒いスーツに黒いサングラスの男が二人。
「マネージャーか?」 博樹は一瞬そう思い、見逃してしまった。
その背中は、ロボットのぎこちない動きではなく、普通の人間であったため、見分けがつかなかった。
「逃げられた……」
HEROは悔しそうに唇を噛んだ。
ヴィランズは群馬県を狙っている。
地下資源――その正体は不明だが、群馬県桐生市では数種類のレアアースが発見されている。
漫才にでてくる嬬恋村の毛無峠には、かつて硫黄を運び出した索道があり、今は立ち入り禁止区域となっている。
「父さんの実家も群馬だし…… まどかさんと星を見に行く約束をしたぐんま天文台があるのも群馬県だ」
博樹は胸の奥に不安が広がるのを感じた。
「とりあえず、ここを離れよう。また黒ずくめの連中が現れるかもしれない」
二人は静かに楽屋前を後にした。




