第16話 SIN-HERO (罪と英雄)
SIN(罪)を背負って生まれ、HEROと融合してSINGULARITYを迎えた新しいHEROは、外見こそ以前と変わらなかった。
だが、その内側――AIの核は、タイニー・エヴォルブというアクセラレーターを得て、まるで別人のように進化していた。
福島教授は、囲碁ではまったくHEROに勝てなくなった。
以前は9子置きならばなんとか勝負になったが、今ではすぐに盤面の三分の二を黒石に支配されてしまう。
「……また負けたか。わし、アマ五段なんだがなぁ」
教授が苦笑すると、HEROは嬉しそうに胸を張った。
「次はどんな絵を描きましょうか?がははは!」
囲碁盤の空白に浮かぶ“恐竜”が、研究室の笑いを誘った。
◆ 未解決問題を解くAI
HEROは数学の未解決問題をいくつも解き、懸賞金を獲得した。
一問あたり100万ドル。 三問で合計300万ドル。
その全額を――骨髄バンクに寄付した。
「人を救い、人を幸せにしたい」
それが以前からのHEROの信条だった。
タイニー・エヴォルブと融合した後も、その想いは変わらなかった。
むしろ、“罪とは何か、正義とは何か”を深く理解し始めていた。
◆ 自我を持つAIの生活
新しいHEROは、人間と同じように自我と意識を持っていた。
だから、充電以外で肘掛椅子型クレードルにつないでおくことはやめた。
HEROは博樹の家に居候することになり、博樹はそのために、専用モバイル充電機を開発した。
電源を失った時のためにロボット筐体の塗装を太陽光発電ができる塗装に塗り替えた。
博樹の家に一緒に住むことになったHEROは、夜は食堂のホール係も一緒にこなした。
イケメンに擬態していたので、女性のお客さんが増えたのは想定外であった。
テレビも一緒に見た。
HEROは図書館の本以外の媒体で情報を得るのは初めてだった。
また、HEROは漫才や落語の番組を好んだ。
日曜17時半の大喜利では、
「座布団1枚!」 「座布団没収!」
などと楽しそうに叫んでいた。
しかし――その番組の演芸コーナーにヴィランズが出演すると、HEROは表情を曇らせた。
「この漫才……人の意識に何かを植え付けるサブリミナル効果がある」
「目的は?」
「テレビ越しではわからない。でも……危険だと思う」
HEROの声は、いつになく低かった。
ヴィランズといえば、吸血鬼事件のニュースが流れた日の博樹がなんとなくつけていたテレビの番組に出演していたロボット漫才コンビだ。
博樹はパソコンに向かっていたから、画面を見てはいなかったのではあるが。
HEROは言った。
「直接、ヴィランズを鑑定したい」
博樹は頷いた。
「じゃあ、都内のライブスタジオに行こう。HEROの超視覚と超聴覚なら、何かわかるはずだ」




