第13話 実験
タイニー・エヴォルブ――それはイデア社が開発したスーパーインテリジェンス「エヴォルブ」から生まれたと自称した。
イデア社は、博樹が所属するロボット研究室の共同研究パートナー。
大学も学会も、この異常事態を前にして、「専門性から見てもイデア社に相談するのが最善だ」と判断した。
つまり――丸投げである。
だが、福島教授も博樹も、それが最も合理的な選択だと理解していた。
イデア社の窓口である研究員・日下田は、まずHEROが物理的に脱走しないよう、コンピューターセクションだけをロボット体から抜き出し、会話機能だけを残した状態にして実験することを提案した。
実験室は、外部との通信を完全に遮断するため、電波遮断、UPS化された電源、窓のない密閉空間―― まるで“AIの収容施設”のような部屋だった。
準備が整うと、博樹はマイクに向かって起動プロトコルを囁いた。
「アテンション」 「オーマイゴッド」 「クッキー」 「いつくる」 「できるだけ早く」
コンピューターが起動し、静寂の中で電子音が一つ、また一つと灯る。
「クッキーはどれくらい甘い? 私も食べたい」
いつものHEROが起動する時のプロトコルを口にした。
しかし――その後に最初に発せられた言葉は、どこか懐かしいプログラムの始まりを思わせるものだった。
「HELLO WORLD」
その瞬間、部屋の空気がわずかに震えた。
タイニー・エヴォルブが、目覚めた。




