肝心なこと
合茶に誘うべき令嬢方の顔を、一人ずつ思い浮かべる。けれど、正直なところ、心当たりは少なかった。お茶会で顔を合わせた程度の間柄では、こんな前例のない試みに、いきなり誘うのは難しい。
迷った末、私はアンネリーゼ様に、相談することにした。
「合茶という、新しい趣向の集まりを計画しておりまして……差し支えなければ、ご友人の中に、興味を持っていただけそうな方は、いらっしゃいませんか」
数日後、返事が届いた。
「私自身は、今、参加できる立場ではありませんが……親しくしている友人が、数名、心当たりがございます。私から、それとなく話をしておきますね」
心強い申し出だった。アンネリーゼ様の口添えがあれば、初対面同然の相手にも、無理なく話を持ちかけられる。
それから数日、返事が、少しずつ届き始めた。
「アンネリーゼ様からお話を伺い、興味が湧きました。ぜひ、参加させてください」
「変わった趣向とのことですが、かえって面白そうです。普段の夜会には、少々退屈しておりましたので」
中には、少し戸惑いを滲ませた返事もあった。
「正直、不安もございますが……アンネリーゼ様が太鼓判を押してくださるのなら」
一方で、丁重な断りの返事も、一通届いた。
「お誘いいただき、光栄に存じます。ですが……どのような方がいらっしゃるのか分からないまま、お会いするのは、少し勇気が出ず。またの機会に、ぜひ」
正直な気持ちなのだろう。無理に誘うつもりはない。それでも、少し寂しさもある。
それでも、アンネリーゼ様が、もう一人、心当たりのある方を紹介してくださり、どうにか四人、揃えることができた。一通一通、丁寧に目を通しながら、私は密かに、胸を撫で下ろしていた。
合茶の目処が立ったところで、私は、机の引き出しにしまい込んだままの紙を取り出した。イルゼヴィーネ様から預かった、あの候補者の名簿だ。こちらも、いつまでも後回しにはできない。
カール様については、まだ、判断を保留したままだった。人柄の面でも、美容術師組合との繋がりという懸念の面でも、はっきりと結論を出せずにいる。
残る二人――隣国の高位貴族と、王族に仕える文官。マリーカ様の手配で、隣国出身の侍女と、話す機会が整った。
指定された日、マリーカ様の屋敷を訪ねると、応接間に通される前に、マリーカ様ご自身が、廊下まで出迎えてくださった。
「わざわざ、ありがとうございます。侍女には、あらかじめ、知っていることは何でもお話しするよう、伝えてありますので」
そう言って、朗らかに微笑む。以前、見合いの相談に乗った頃とは、随分と表情が柔らかくなったように思う。
案内された応接間で待っていると、初老の侍女が、深々と一礼して出迎えた。
「隣国のお話を伺いたいと、お嬢様から伺っております」
「はい。ヴァレンフォール卿について、何か、ご存知でしたら」
侍女は、懐かしむように、少し目を細めた。
「あの方でしたら、私が向こうのお屋敷にお仕えしていた頃、何度かお見かけしたことがございます。……随分と、率直な物言いをなさる方でしたよ」
「率直、と申しますと」
「一度、宴の席で、ご自身の見立て違いを、皆の前で、あっさりお認めになったことがございました。向こうの国では、それは大変な醜態とされることなのですが」
侍女は、少し声を落とした。
「それでも、ヴァレンフォール卿は、悪びれる様子もなく、笑ってお認めになって。あの潔さに、密かに感心した方も、少なくなかったように思います」
「他にも、何か、印象に残っていることはございますか」
「そうですね……お仕えする者にも、分け隔てなく、お声をかけてくださる方でした。身分の低い私にも、季節の挨拶を欠かさず。使用人の間でも、評判の良い主でしたよ」
体裁を取り繕うより、率直であることを選ぶ人。身分に関わらず、誰にでも分け隔てなく接する人。カール様とは、正反対の在り方だった。イルゼヴィーネ様が望む、「物怖じせず接せられる人」という条件にも、案外近いのかもしれない。
「貴重なお話を、ありがとうございます」
侍女の屋敷を辞し、帰りの馬車に揺られながら、私は懐から名簿を取り出した。ヴァレンフォール卿の名の下に、聞いたばかりの話を、丁寧に書き留めていく。
それでも、これはあくまで、周りから見た評判に過ぎない。本当に相応しい相手かどうかは、まだ分からない。当人の人柄は、実際に言葉を交わしてみなければ、本当のところは見えてこないものだ。
それに、もっと大事なことに、私は今更ながら気がついた。カール様とお会いした時も、今回、侍女に話を伺った時も、私が確かめてきたのは、あくまで"人柄"ばかりだった。「この方は、イルゼヴィーネ様との縁談を、そもそも前向きに考えていらっしゃるのか」――その、一番肝心なことを、まだ誰にも尋ねていない。
これでは、まるで、誰かの人となりを、勝手に測っているだけになってしまう。イルゼヴィーネ様には、「人柄を見極めてほしい」と頼まれた。それは、相手方の気持ちを置き去りにしていい、という意味では、決してないはずだ。
窓の外を流れる夕暮れの街並みを眺めながら、私は、次に何をすべきか、頭の中で組み立て始めた。まずは、機会を作って、ヴァレンフォール卿ご本人に、直接お伺いしてみよう。この縁談に、興味を持っていただけるのかどうか――それを確かめることから、始めなければならない。
そして、もう一人、まだ何も手をつけられていない、王族に仕える文官の方にも、早いうちに、機会を作らなければ。懐の紙を、そっと握りしめながら、私は小さく息を吸い込んだ。




