新しい試みへの一歩
イルゼヴィーネ様に、カール様を推すのは難しいかもしれない――そう結論づけてから、まだ数日しか経っていなかった。それでも、こちらはこちらで、着実に進めていく必要がある。
「一度、直接お話を伺いたく存じます」
ヴィルヘルム様からの返事を受け取ってから、数日。私は再び、辺境伯家の別邸を訪ねていた。今度は、母君も同席されるという。
馬車を降りながら、私は密かに、胸の内で身構えていた。前回とは違い、今日は"提案がどう形になるか"を、具体的に詰めていく場になる。準備してきたことを、うまく説明できるだろうか。
応接間に通されると、そこには、ヴィルヘルム様と、もう一人、華やかな装いの女性が待っていた。目が合うなり、にっこりと、屈託のない笑みを向けられる。
「初めまして。ヴィルヘルムの母、マルグレーテと申しますわ」
朗らかな声だった。ヴィルヘルム様の、あの控えめな物腰とは、確かに、少し毛色が違う。
「エミーリア・クラインリヒトと申します。本日は、お時間をいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ。息子から話を聞いて、いても立ってもいられなくて。こんな面白い試み、なかなかないもの」
マルグレーテ様は、身を乗り出すようにして、続けた。
「それで、具体的には、どんな風に進めるおつもり?」
その勢いに、少し圧倒されながらも、私は用意していた案を、一つずつ説明していった。
「これまでの見合いのような、一対一で向き合う形式ではなく、複数人が、気軽に顔を合わせられる場を、考えております。まだお互いに面識のない方々でも、肩肘張らずに語らえるような」
「まあ、それは、どういった名目で開くの?ただの集まり、というわけにもいかないでしょう」
もっともな問いだった。貴族社会で人を集めるには、それらしい名目が要る。
「お茶会、というのは、いかがでしょうか。ただ、通常のお茶会は、女性同士で開かれるものが大半ですので――男女が共に集う分、少し趣向を変えた、特別な会だと銘打とうと思います」
前世で、こういう催しを、合コンと呼んでいた。合同で開く、懇親のための集まり――今回の趣向とも、根は同じだ。ならば。
「『合同茶会』、略して『合茶』。これでどうでしょう」
我ながら、単純な発想だ。それでも、単純だからこそ、一度聞けば忘れない、分かりやすい名前になる。
マルグレーテ様は、ぱっと表情を明るくした。
「あら、合茶。いい響きね。息子のためを思えばこそ、私にできることがあるなら、何でも協力するわ」
よし、掴みは悪くない。内心でほっと息をつきながら、私は続けた。
「人数は、男性、女性、それぞれ四名ほどを予定しております。庭でお茶や軽食を囲みながら、自由に語らっていただく形を、想定しております。私自身は、その枠には入らず、進行役として立ち回らせていただこうと思います。話が途切れた時に、さりげなく次の話題を振ったり、緊張していらっしゃる方には、それとなく助け舟を出したり――そういった形で、皆様が過ごしやすい時間になるよう、お手伝いできればと」
(立派に、幹事としての役目を果たしてみせる)
内心で、そっと気合いを入れる。
「参加される皆様には、あらかじめ、"複数人で気軽に語らう趣旨の集まり"だと、きちんとお伝えしておこうと思います。夜会のような、広く社交を目的とした場でも、見合いのような、一対一を前提とした場でもない――その中間のような形式だと、ご理解いただいた上で、お越しいただければと」
隣で、ヴィルヘルム様が、小さく頷いた。
「それと、一点、念のため申し添えたいのですが」
私は、居住まいを正した。
「お声がけする方は、婚約者や、決まったお相手のいらっしゃらない方に限らせていただこうと思います。皆様、真剣に、縁を探していらっしゃる場ですので」
「それは当然ね」
マルグレーテ様が、頷いた。
「参加者の人選は、どのように」
ヴィルヘルム様が尋ねる。
「令嬢方については、私の方で、心当たりのある方に、それぞれお声がけしてみようと思います」
そこまで言ってから、私は一度、言葉を切った。少し言い出しにくいことを、正直に伝えなければならない。
「お恥ずかしながら、殿方の方には、私には、これといった伝手がございません。差し支えなければ、ヴィルヘルム様か、マルグレーテ様の方で、お心当たりをいただけますと、大変助かります」
ヴィルヘルム様は、少し考え込むように、視線を落とした。
「友人と呼べる相手は、そう多くありませんが……幼い頃からの付き合いで、気心の知れた者が、何人かおります。彼らになら、頼めるかもしれません」
「あら、そこは任せてちょうだい。私の方でも、声をかけられそうな方を、探してみるわ」
マルグレーテ様が、快く請け合ってくれた。
「では、令嬢方は私が、殿方はヴィルヘルム様とマルグレーテ様にお願いする、という形でよろしいでしょうか」
「ええ、それでいいと思うわ」
役割分担が定まり、少し肩の力が抜けた。
「なんだか、楽しみになってきたわ。ヴィルヘルム、あなたも、少しは肩の力を抜けそうね」
「……そう、あってほしいものです」
ヴィルヘルム様の声には、まだ緊張が滲んでいた。それでも、以前よりは、幾分か、前向きな響きが混じっているように、私には聞こえた。
打ち合わせを終え、辺境伯家を後にしながら、私は、これから声をかけるべき令嬢方の顔を、一人ずつ思い浮かべていった。アンネリーゼ様やマリーカ様は、それぞれ縁談が進んでいる最中だ。二人には、今回は声をかけられない。
四人、集められるだろうか。あまり親しくない方に、どう切り出せばいいだろう。「合茶」という耳慣れない名目で、いきなり誘われても、戸惑われるだけかもしれない。招待の文面は、慎重に考える必要がありそうだった。
窓の外を流れる景色を眺めながら、私は小さく笑った。「合茶」――我ながら、思いのほか、愛着の湧く名前になった。




