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人気You Tuberになろう!(その1)

「そうだ、You Tuberになろう」


 小麦色の衣をつけたマックナゲットを3ついっぺんに口に放り込みながら、正悟が突然そんな事を言い出した。

 190㎝近い体躯の、男子高校生離れした巨体を誇る正悟が座る様子は、和志の目には子供用の座席に大人が無理やり座っているように映った。

 相変わらず無駄にデカい。そしてむさ苦しい。


 対面に座る和志の視界の大半は、正悟の広い肩幅と分厚い胸板で占められていた。

 テーブルの上には、正悟の注文したハンバーガーが5つほど、紙を剥かれて置かれている。

 一人で食べるには随分な分量だが、東ローランドゴリラのような体躯をした正悟の前にあっては、子供が食べる駄菓子のようなサイズ感だ。


 学校帰りに立ち寄った夕方のマクドナルドは、まだ空席の方が多くあるものの来客も徐々に増えてきていた。

 レジの前には、制服姿の学生たちが数多く並んでいる。

 私服で並んでいる客も少なからずいるが、それも大学生たちだろう。


「……どうしたの急に。自撮りして珍獣観察動画でも上げるつもり?」


 口の中のてりやきバーガーを飲み込み、和志が尋ねる。


「俺という存在の希少性と肉体の芸術的価値を鑑みれば、確かに裸体を毎日ひたすら上げ続ける動画というのも人類にとって大きな意義のある物かとは思うが、違う。そういうつもりは無い」


 大きな手にハンバーガーを5個縦に置き、正悟が手の平で押しつぶしながら答える。

 縦に並べたハンバーガーは30㎝ほどの高さがあったが、正悟の手によりプレス機さながら押しつぶされて、普通のハンバーガー1個サイズにまで縮められた。

 あれでは食感も何もあった物ではないだろう。


「YouTubeはXと並んで民度最悪なSNSのスラム街だ。そんな所に俺の肉体美を映した動画を上げた所で、美的センスのカケラも無い上にベンチプレスで自分の体重分の重量を持ち上げる事すら出来ない、たるんだ腹の生活習慣病患者共から嫉妬混じりのクソリプが届くだけだろう」


 極限まで圧縮されたハンバーガーを齧りながら正悟が続ける。

 パンの柔らかさもひき肉の食感も何もかもが台無しになっているだろうに、まるで気にする素振りは無い。

 隣の席に座る子供を連れた母親が、ハンバーガーを潰す正悟を見て顔をしかめていた。

 母親と同じく正悟の奇行を見ていた小学校低学年だろう男の子が「僕もあれやる! お母さんのハンバーガーも頂戴!」とねだる。

 案の定「コラ! あんな食べ物を粗末にするような真似、しちゃダメ!」と母親に怒られていた。

 しごく真っ当な正論である。

 そんな親子のやり取りや、母親からの軽蔑のまなざしなどまったく気づかない正悟が、大口を開けてハンバーガーだったパンと肉の塊を一口で半分以上噛みちぎる。

 まるで動物園の猛獣だ。


「脳をドーパミンに焼かれてスマホ画面を眺め続ける事に死ぬまで人生を浪費し続ける、救いようのない価値の分からん愚民しかあそこにはいない」


 五個のハンバーガーを圧縮した小麦と肉の塊を瞬く間に平らげた正悟が、現代のSNSをそう結論付ける。

 その口調からは、強い軽蔑が感じられた。

 先ほど正悟を見ていた母子の反応から分かる通り、世間の認識的には軽蔑される側は正悟の方なわけだが。

 和志が頬杖をついて、ポテトを一つつまんで小さな口に放り込んだ。

 

「ふーん。全裸変態ナルシス誇大妄想不審者の痛動画としてなら、多少は需要あると思うけどね。そういう知性の素朴な人達をウォッチングするのが趣味な人達って結構いるし。僕なんかは今こうしてリアルタイムでやってるわけだけど」


 和志が目の前の全裸変態ナルシス誇大妄想不審者をじっと見つめる。

 

「ふん、この俺を動物園のコアラやパンダ等の畜生共と一緒にするなタワケめ」


 不愉快そうに正悟が太い眉をゆがめる。

 和志が、そんな幼馴染の様子を鼻で笑った。


「いや、そんな愛らしい物じゃないだろオマエ。愛玩動物カースト最上位で動物園のアイドルなコアラさんやパンダさんに謝れ。あと鏡と現実を見ろ」


 物心つく前からの腐れ縁だが、コイツの天元突破した自己肯定感が一体どこから出てくるのか和志には一向にわからなかった。

 一体頭に何が詰まってたらこういう思考回路になるのか気になる和志だったが、何も入ってないからこのザマなのだろうと結論付ける。

 

「というか正悟。それだけYouTube民を見下しているなら、何でYouTuberになんてなりたがってるのさ」


「それはもちろん主人公として物語を盛り上げるためだ」


 ハンバーガーを食べ終えて、手についたケチャップをベロリと舐めて正悟が続ける。


「現代の物語文化において、動画配信モノというのは地味に大きな要素を占めている。現代ドラマやコメディで動画配信者として成り上がりたいという物語上の動機を持つ者を主要キャラクターに据えた作品は、漫画なら『喧嘩独学』小説なら『正義の申し子』映画なら『コンジアム』に『ナーヴ』に『トラジティガール』にと枚挙にいとまがないだろう」


 そこまで言うと、正悟は頼んでいたコーラの蓋を開けてストローを外し、大量の氷ごと中身を一気に飲み干す。

 口内に残った氷をガリガリとかみ砕いた。

 コイツそういや去年夏祭り一緒に行った時、かき氷をどんぶり三杯食べても平気な顔してたなと和志が思い出す。

 冷たい息をゲップと共に吐きだした正吾が、空になった紙コップをグシャリと握りつぶし先を続けた。


「勘違い底辺物書き共の掃き溜め、駄作と妄想の産業廃棄物集積所であるなろうやカクヨムといった投稿小説サイトでも、そういう作品群は吐いて捨てるほどある。ダンジョン配信モノだったか? 実に下らん。読んでる奴の気が知れんな。大方、モグラと同じく誰の目にもとまる事の無い、日陰者の陰キャ共が読んでるのだろうが」


「……お前、自分が投稿小説サイトに投稿されてる作品の主人公である可能性とか考慮しないのかよ」


 この世界は全てがフィクションで何らかの物語の舞台であり、自分はその物語の主人公であると信じて疑わない妄想狂の妄想に合わせて、無駄だと知りつつ和志がツッコミを入れる。


「ふざけるな。この大山正悟が、人生上手くいってない底辺負け組弱者男性共の書いた、小説どころかマトモに読める日本語にすらなっていないご都合主義100%で安い欲望丸だしな妄想駄文の主人公だと? バカにするのもいい加減にしろ」


「正悟、前に『異世界に行く』っつってトラックに飛び込んでなかったっけ? あれってなろうやカクヨムみたいな投稿小説作品の主人公である可能性を考慮しての事だったんじゃないの?」


 正吾が顔を背け、ハエか何かを追い払うように手をシッシッと振った。


「若気の至りだ。遠く過ぎ去った過去の事をいつまでもほじくり返してウダウダ言うな。背も小さければ器も小さいな貴様は」


 お前がトラックに飛び込んだの、ほんの2週間前だろが、と心の中で和志が毒付く。

 口に出さなかったのは、言った所で聞き入れない事が分かり切っていたからだ。


「とにかくだ。YouTuberというのは、何かしらのドラマを発生させるのに実に便利な舞台装置的ポジションなのだ。視聴回数を稼ぐためというわかりやすい物語上の動機があるキャラクターは、ドラマを作る上で実にやりやすい。闇バイトの実態を調べるも良し、適当なおっさんをタコ殴りにして痴漢逮捕するも良し、食っては吐いて食っては吐いてを繰り返す偽大食い動画を作るも良しだ。曰くつきの廃墟を訪れて中を練り歩くのも良いな」


 自分で言ってて納得したのか、正悟が太い首を上下させながら一人うんうんと頷く。


「うむ、それが良い、廃墟にしようそうしよう。人が殺されたか死んだかした廃墟にクソと小便でもまき散らせば、幽霊か怪異の類がダース単位で現れるに違いない。動画再生回数もうなぎ上りだろうからYouTuberのサクセスストーリーとしても申し分ないだろう。これでジャンプの読者も大満足だ」


「お前の中での週刊少年ジャンプの主人公像、一体どうなってるんだよ」


 ジャンプの主人公像からは到底かけ離れた存在な幼馴染を前に、和志がぼやいた。


「まあ、幽霊なんているわきゃ無いからね。闇バイトして犯罪に巻き込まれたり、私人逮捕なんて余計な真似してお巡りさんに取っ捕まるよりも、テキトーな廃墟巡りでもしてる方が安全なんだろうけどさ」


 ポテトをつまみながら、和志はそう結論付けた。


人気You Tuberになろう!(その1)……END


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― 新着の感想 ―
貴方が削除したのか何かの原因で消えたのか分かりませんが、もう一度感想を書きます。 貴方のこのシリーズの文章は、読んでいて嫌な気分になります。 原因として、この話は3,5割くらい第三者を馬鹿にしている…
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