第九話「最後の名」
夜明け前の山は、不気味なほど静かだった。
風もない。
虫の声も聞こえない。
聞こえるのは、二人の荒い息遣いだけだった。
平と木村は木下が消えた場所を見つめていた。
六人。
たった数日で、六人の命が奪われた。
残ったのは二人だけ。
平は拳を握り締める。
「……俺たちが鐘を鳴らさなければ。」
木村は何も答えなかった。
あの時、止められたはずだった。
「やめよう」と言えたはずだった。
だが誰も止めなかった。
その代償が、仲間たちの命だった。
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朝になり、二人は木村が見つけた古文書を改めて調べ始めた。
何枚もの紙を一つずつめくる。
虫に食われ、読めない部分も多い。
しかし、一番下に挟まれていた紙だけは保存状態が良かった。
そこには鐘の絵が描かれ、その下に古い文字が並んでいた。
木村はゆっくり読み上げる。
> 「鐘は七つの名を求める。」
さらに下には続きがあった。
> 「七つ目の名が刻まれし時、鐘は再び眠る。」
平は眉をひそめた。
「七人死ねば終わるってことか……。」
木村は首を横に振る。
「まだ続きがある。」
最後の一文。
そこだけ文字の色が違っていた。
まるで後から書き足されたように。
> 「ただし、穢れなき者が鐘に触れた時、契約は新たに始まる。」
木村の顔色が変わる。
「……俺だ。」
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沈黙が流れた。
平は木村を見つめる。
「お前が鐘に触れたら?」
「新しい呪いが始まる。」
「じゃあ近づくな。」
木村は苦しそうに笑った。
「でも、止める方法は神社にある。」
二人は答えを探すため、もう一度あの神社へ向かうことを決意する。
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その日の夕方。
平は荷物をまとめていた。
懐中電灯。
ロープ。
ライター。
そして坂本が残したICレコーダー。
試しに再生ボタンを押す。
最初は雑音だけ。
しかし突然、新しい音声が流れ始めた。
昨日まで入っていなかったはずの音だった。
ゴォーン……
鐘の音。
その後に女の声。
> 「あと……ひとり。」
平の全身に鳥肌が立つ。
録音はそこで終わらない。
微かな足音。
ザッ……。
ザッ……。
誰かが録音機に近づいてくる。
そして最後に、はっきりとした囁き。
> 「平。」
レコーダーの電源が突然切れた。
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その夜。
平は眠れなかった。
午前二時十三分。
時計が止まる。
そして――
ゴォーン……
七度目の鐘が鳴った。
今までで一番近く。
まるで枕元で鳴ったようだった。
平はゆっくりと顔を上げる。
部屋の隅。
暗闇の中に、巨大な鐘の輪郭が浮かび上がる。
その前には、白装束の巫女。
彼女は悲しそうな目で平を見つめ、静かに唇を動かした。
「……ごめんなさい。」
次の瞬間、鐘がゆっくりと平へ向かって動き始めた。
平は息を呑み、玄関へ駆け出す。
だが、その背後では――
ゴォォォーン……
鐘の音が、確実に迫っていた。
第一章・最終話「鳴らしてはいけない鐘」へ続く。




