第八話「鐘が落ちる夜」
木下の悲鳴は、山の麓の住宅街に響き渡った。
「助けてくれぇぇぇ!」
平は必死に木下へ駆け寄る。
しかし、あと数メートルというところで体が動かなくなった。
見えない壁。
いや、空気そのものが重くなっていた。
ゴォーン……
鐘の音が鳴る。
平の耳ではなく、胸の奥に響く。
木下は何もない夜空を見上げ、震えながら後ずさる。
「来る……!」
「何が見える!」
平が叫ぶ。
木下は涙を流しながら空を指差した。
「あの鐘だ……!」
平には何も見えない。
だが木下の視線を追うと、夜空がわずかに歪んでいるように見えた。
空気が揺れ、巨大な円形の影がゆっくりと降りてくる。
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木村も外へ飛び出してきた。
彼は木下ではなく、少し離れた場所を見つめていた。
そこには白装束の巫女が立っていた。
巫女は木下を見つめながら、静かに涙を流している。
「お願いだ……!」
木村は叫んだ。
「もうやめてくれ!」
巫女は苦しそうに首を横へ振る。
その唇がわずかに動く。
「……止められない。」
かすれた声だった。
「鐘が……選ぶ。」
その言葉と同時に、巫女の姿は霧のように消えた。
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ゴォォォーン!!
これまでで最も大きな鐘の音が響く。
木下は耳を塞ぎ、その場に崩れ落ちた。
「嫌だ……死にたくない!」
地面が震える。
アスファルトに円形のひびが走る。
木下の体がゆっくりと沈み始めた。
まるで、目に見えない巨大な重りに押し潰されているようだった。
平が腕を掴む。
「立て!」
木村も反対側から引っ張る。
それでも木下は少しずつ沈んでいく。
骨が軋む音が聞こえた。
「ぐっ……!」
木下の顔が苦痛に歪む。
「助けて……!」
その瞬間――
ドォン!!
鈍い衝撃音が響いた。
砂ぼこりが舞い上がる。
数秒後、静寂が訪れる。
平が恐る恐る目を開ける。
そこには木下の姿はなかった。
地面には巨大な円形のくぼみだけが残され、その中央には血の付いたネックレスが落ちていた。
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残ったのは三人。
平。
木村。
そして最後の一人。
三人は言葉もなく、その場に立ち尽くした。
その時、木村のポケットに入っていた古文書が風で開く。
今まで気づかなかった最後の一節が現れていた。
> 「七つの鐘が鳴りし時、最後の名が刻まれる。」
木村は青ざめる。
「七つ……。」
坂本。
松原。
森村。
植田。
石井。
木下。
すでに六人。
つまり――
次に鐘が鳴れば、最後の犠牲者が決まる。
その瞬間、山の方角からゆっくりと鐘の音が響いた。
ゴォーン……。
平と木村は同時に顔を上げた。
鐘は、もう待ってはくれなかった。
第一章・第九話「最後の名」へ続く。




