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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第一章「鳴らしてはいけない鐘」

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第七話「生き残る条件」

石井が消えた。


残されたのは、


平。


木村。


木下。


そして植田を失い、恐怖で言葉を失った仲間たち。


誰も泣かなかった。


涙を流す余裕すらなかった。


山を下りる足だけが震えていた。



---


夜明け前。


四人は木村のアパートへ集まった。


玄関には泥だらけの靴。


誰一人として眠ろうとはしない。


平が重苦しい沈黙を破った。


「……もう隠してることはないよな?」


木村は頷いた。


机の上に古い資料を広げる。


「昨日、神社で見た巫女は、俺に触れられなかった。」


「確かにそうだった。」


平も見ていた。


巫女の手は木村の胸の前で止まっていた。


「でも石井には向かった。」


木下が小さく呟く。


木村は一枚の和紙を取り出した。


端が焼け焦げた、古い記録だった。


そこには墨でこう記されていた。


> 『穢れなき者、鐘は拒む。』




さらに続きがあった。


> 『女を知りし者は、鐘に名を刻まれる。』




部屋の空気が凍る。


木下が恐る恐る尋ねた。


「……それって。」


木村は苦しそうに答えた。


「俺だけが呪われなかった理由なんだ。」


誰も笑わない。


誰も茶化さない。


ここまで仲間が死んだ今、それは冗談ではなかった。



---


平は拳を握る。


「つまり、木村だけは助かるのか?」


「……分からない。」


木村は首を振る。


「昨日、初めて鐘の音が聞こえた。」


その言葉に全員が息をのんだ。


「呪いは変わったのかもしれない。」



---


その時だった。


カチッ。


部屋の時計が止まった。


午前二時十三分。


坂本が死んだ時刻。


松原が死んだ時刻。


石井が消えた時刻。


全員が時計を見つめる。


そして。


ゴォーン……


部屋の中で鐘が鳴った。


窓は閉まっている。


テレビも消えている。


なのに。


音だけが響く。


木下が耳を塞ぐ。


「やめろ……!」


ゴォーン……


二回目。


平には聞こえた。


女のすすり泣き。


ゴォーン……


三回目。


木下が突然立ち上がった。


「来る!」


玄関へ走る。


平が腕を掴む。


「外へ出るな!」


「離せ!」


木下は振り払って飛び出した。


階段を駆け下りる。


誰も追いつけない。


その時。


マンション中に。


鐘の音が響いた。


ゴォォーン……


住人たちは何も気付かない。


聞こえているのは。


呪われた者だけだった。


平が外へ飛び出す。


木下は道路の真ん中で立ち尽くしていた。


空を見上げている。


「……あれ。」


平も見上げる。


何もない夜空。


しかし木下の目には。


巨大な黒い鐘が。


空からゆっくり落ちてきていた。


「いやぁぁぁ!」


木下は逃げる。


だが足が進まない。


まるで地面に縫い付けられたようだった。


ゴォーン……


音が鳴るたび。


鐘は近づく。


そして。


木下の悲鳴が夜に響いた――。


(第一章・第八話へ続く)

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