第五話「四人目の名前」
ドアの向こうには誰もいなかった。
ただ暗い廊下が続いている。
なのに。
植田には見えていた。
廊下の奥。
何か巨大なものがいる。
丸い影。
揺れる影。
まるで山奥の神社にあった、あの鐘。
「……閉めろ」
平が小さく言った。
「早く!」
植田が震える手でドアを閉める。
しかし。
閉まる直前。
隙間から。
黒い何かが見えた。
人の指のようなもの。
ドアを掴んでいた。
植田は悲鳴を上げた。
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その後。
六人は一睡もできなかった。
植田は怯えていた。
自分の名前が呼ばれる気がして。
木村は古文書を読み続けていた。
「何か分かったか?」
平が聞く。
木村はしばらく黙った。
「……この鐘は、人を殺してるんじゃない」
「じゃあ何だよ」
木村は紙を握る。
「取り戻してる」
全員が黙る。
「昔、この神社で巫女が殺された。誰かを愛した罪だって言われて」
「愛した罪?」
「村の人間が勝手に決めたんだ」
木村の声が低くなる。
「巫女は恋人と逃げようとしていた。でも男は逃げなかった」
「……」
「男は村人に殺された」
平が聞く。
「じゃあ呪いの相手は?」
木村は答えた。
「巫女を裏切った男と、愛を知る男」
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その時。
植田のスマホが鳴った。
全員が飛び上がる。
画面を見る。
知らない番号。
「出るな」
木村が言った。
しかし。
植田は震える手で通話ボタンを押した。
「もしもし……」
最初は無音。
数秒後。
小さな音。
ゴォーン……
植田の顔が青ざめる。
「……」
「何が聞こえる?」
平が聞く。
植田は震えながら言った。
「鐘……」
「切れ!」
木村が叫ぶ。
しかし。
電話の向こうから。
女の声。
「植田……」
全員が凍った。
「次はあなた」
通話終了。
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その瞬間。
部屋の照明が消えた。
真っ暗。
誰かが叫ぶ。
「植田!」
懐中電灯をつける。
そこに植田はいなかった。
ただ。
床にスマホだけが落ちていた。
画面には録音。
勝手に録音されていた。
再生すると。
植田の叫び声。
『やめろ!』
『近づくな!』
そして。
巨大な音。
ゴォーン……
ゴォーン……
ゴォーン……
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平たちは外へ飛び出した。
しかし。
外にも何もない。
植田の姿もない。
ただ。
庭の地面。
そこに。
大きな円形の跡があった。
まるで。
巨大な鐘が落ちたような跡。
中心には。
植田の指輪だけが残されていた。
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残りは五人。
平。
木村。
木下。
石井。
そして。
植田を失った恐怖に震える二人。
平は決意した。
「今夜、神社へ行く」
「また?」
石井が叫ぶ。
「嫌だ! 行ったら死ぬ!」
平は答える。
「行かなかったら死ぬ」
誰も言い返せなかった。
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夜。
五人は山へ向かった。
懐中電灯だけが頼り。
暗い山道。
足音。
息遣い。
そして。
遠くから。
ゴォーン……
鐘が鳴った。
木村だけが立ち止まる。
「……」
「どうした?」
平が聞く。
木村は震えた。
「今……」
「何だ?」
「初めて聞こえた」
全員の顔が変わる。
木村を見る。
「嘘だろ……」
木村は山の奥を見る。
「俺にも……」
ゴォーン……
「聞こえる」
その瞬間。
神社の方から。
五人分の足音ではない。
もう一つ。
誰かが歩く音がした。
ゆっくり。
後ろから。
近づいてくる。
ザッ……
ザッ……
そして。
耳元で。
女の声。
「見つけた」
木村だけが振り返った。
そこには。
泣きながら笑う女が立っていた。
巫女だった。
そして彼女の後ろには――
巨大な鐘が浮かんでいた。




