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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第四章 「残響起動(ざんきょうきどう)」

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第二話「再起層」

ゴォォン……


その音が鳴るたびに、世界は“上書き”ではなく“重ね書き”されていく。


消えるのではない。


残ったまま、別の構造が載る。



---


彼は歩いていた。


どこを歩いているのかは重要ではない。


重要なのは、歩くたびに“層が変わる”ことだった。



---


駅がある層。


神社がある層。


何もない層。


鐘だけがある層。



---


すべてが同じ座標に重なっている。



---


「……再起層か」


彼は小さく呟く。



---


ゴォォン……



---


その音に合わせて、空間が一段階沈む。


沈むというより、“折れる”。



---


彼の前に、裂け目が開く。


そこから見えるのは、見覚えのある都市。


だが決定的に違う。



---


音がない。


いや、音が“固定されている”。


すべての音が一拍遅れたまま止まっている。



---


その中を、人影が歩く。


だが動きが不自然だ。


まるで、誰かに“動かされている”ように。



---


彼は目を細める。


「まだ同期してない層か」



---


裂け目の奥から声。



---


『戻す気か』



---


彼は即答しない。


代わりに周囲を見回す。



---


再起層は単純ではない。


いくつもの“失敗した世界”が積層している。


鐘が完成しなかった世界


選択が固定された世界


音が失われた世界




---


すべてが同時に存在している。



---


ゴォォン……



---


音が鳴る。


だが今回は外からではない。


裂け目の“さらに奥”。



---


彼は理解する。


「これは外側じゃない」


「試行だ」



---


その瞬間、裂け目の中から白い影が現れる。


しかし鈴音でも木村でもない。


もっと“無機質な観測体”。



---


影は言う。


「再起層へ戻る必要はない」



---


彼は問う。


「じゃあ何のために開いてる」



---


影は答える。


「確認」



---


ゴォォン……



---


裂け目の奥の都市が一瞬だけ揺れる。


その揺れに合わせて、世界の構造が書き換わる。



---


彼は気づく。


再起層は過去ではない。



---


失敗を保存した実験領域だ。



---


影が続ける。


「鐘は完成していない」


「ただ、更新され続けている」



---


彼は小さく笑う。


「じゃあ俺は何回目だ」



---


影は答えない。


しかし沈黙が答えだった。



---


ゴォォン……



---


再起層の奥で、無数の“彼”が一瞬だけ見える。


鐘になった彼


抵抗した彼


観測する彼


崩壊した彼




---


彼は理解する。


これは記録ではない。



---


並列だ。



---


彼は裂け目を見る。


「なら、今回はどこを変える」



---


影は静かに言う。


「まだ決まっていない」



---


ゴォォン……



---


第四章・第三話


「未完成観測」へ続く。

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