第二話「再起層」
ゴォォン……
その音が鳴るたびに、世界は“上書き”ではなく“重ね書き”されていく。
消えるのではない。
残ったまま、別の構造が載る。
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彼は歩いていた。
どこを歩いているのかは重要ではない。
重要なのは、歩くたびに“層が変わる”ことだった。
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駅がある層。
神社がある層。
何もない層。
鐘だけがある層。
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すべてが同じ座標に重なっている。
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「……再起層か」
彼は小さく呟く。
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ゴォォン……
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その音に合わせて、空間が一段階沈む。
沈むというより、“折れる”。
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彼の前に、裂け目が開く。
そこから見えるのは、見覚えのある都市。
だが決定的に違う。
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音がない。
いや、音が“固定されている”。
すべての音が一拍遅れたまま止まっている。
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その中を、人影が歩く。
だが動きが不自然だ。
まるで、誰かに“動かされている”ように。
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彼は目を細める。
「まだ同期してない層か」
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裂け目の奥から声。
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『戻す気か』
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彼は即答しない。
代わりに周囲を見回す。
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再起層は単純ではない。
いくつもの“失敗した世界”が積層している。
鐘が完成しなかった世界
選択が固定された世界
音が失われた世界
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すべてが同時に存在している。
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ゴォォン……
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音が鳴る。
だが今回は外からではない。
裂け目の“さらに奥”。
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彼は理解する。
「これは外側じゃない」
「試行だ」
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その瞬間、裂け目の中から白い影が現れる。
しかし鈴音でも木村でもない。
もっと“無機質な観測体”。
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影は言う。
「再起層へ戻る必要はない」
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彼は問う。
「じゃあ何のために開いてる」
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影は答える。
「確認」
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ゴォォン……
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裂け目の奥の都市が一瞬だけ揺れる。
その揺れに合わせて、世界の構造が書き換わる。
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彼は気づく。
再起層は過去ではない。
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失敗を保存した実験領域だ。
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影が続ける。
「鐘は完成していない」
「ただ、更新され続けている」
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彼は小さく笑う。
「じゃあ俺は何回目だ」
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影は答えない。
しかし沈黙が答えだった。
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ゴォォン……
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再起層の奥で、無数の“彼”が一瞬だけ見える。
鐘になった彼
抵抗した彼
観測する彼
崩壊した彼
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彼は理解する。
これは記録ではない。
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並列だ。
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彼は裂け目を見る。
「なら、今回はどこを変える」
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影は静かに言う。
「まだ決まっていない」
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ゴォォン……
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第四章・第三話
「未完成観測」へ続く。




