第八話「未定義領域」
青年が目を開けた瞬間、三つの選択肢は消えていた。
代わりに残っていたのは、“境界のない空間”だった。
ゴォォォン……
鐘の音だけが、どこからともなく続いている。
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ここには「外側」も「内側」も存在しない。
あるのは、まだ名前を持たない層。
未定義領域。
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青年は一歩踏み出す。
足元の感触はない。
しかし沈むこともない。
ただ、存在が“固定されていない”。
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白い影が現れる。
だがその姿はこれまでよりも曖昧だった。
輪郭が何度も書き換わる。
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「ここに来たか」
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青年は問いかける。
「ここは何だ」
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影は少し間を置いて答える。
「まだ“決まっていない場所”」
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ゴォォォン……
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音が鳴るたびに、空間が書き換わる。
神社の石段になる
駅のホームになる
何もない白になる
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そのすべてが同時に起きる。
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青年は理解する。
ここは“結果の前”ではない。
結果が固定される前の揺らぎそのものだ。
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影が続ける。
「核鐘は、ここでしか変わらない」
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遠くに核鐘の影が見える。
しかし完全ではない。
半分だけ存在している。
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その中心から声が漏れる。
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平。
鈴音。
木村。
そして無数の名前。
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だがどれも“確定していない”。
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青年は気づく。
「ここで選ばなかったものは、全部残るのか?」
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影は答えない。
代わりに空間が歪む。
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そこに“可能性の群れ”が現れる。
平が鐘になる未来
平が外へ戻る未来
平が存在しない未来
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すべてが同時に浮かんでいる。
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ゴォォォン……
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鐘の音が揺れる。
未定義領域そのものが震えている。
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青年は核鐘を見る。
その中心に、小さな“亀裂”がある。
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それはまだどの選択にも属していない。
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白い影が言う。
「そこが最後の余白」
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青年は近づく。
その瞬間、声が重なる。
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平の声。
『決めるな』
鈴音の声。
『決めて』
木村の声。
『もう一度』
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青年は止まる。
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ゴォォォン……
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鐘が一瞬だけ“無音”になる。
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そして次の瞬間。
未定義領域がわずかに収束し始める。
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影が呟く。
「始まる」
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第三章・第九話
「収束点」へ続く。




