第九話「収束点」
未定義領域が、ゆっくりと“形”を持ち始めていた。
それは建物でも空間でもない。
もっと根本的な、意味の配置だった。
ゴォォォン……
鐘の音が鳴るたびに、揺らぎが一点へ集まっていく。
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青年は立っている場所を見失っていた。
さっきまで足元だったものが、今は天井のようにも感じられる。
距離の概念が崩れている。
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白い影が静かに言う。
「ここが収束点」
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「収束点……?」
青年の声は空間に吸い込まれる。
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影は続ける。
「すべての選択が重なった場所」
「すべての時間が折りたたまれる場所」
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ゴォォォン……
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その音とともに、無数の“青年”が再び現れる。
だが今度は違う。
彼らは個別ではない。
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一つの群体として動いている。
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その中に、平の影がある。
木村の影がある。
鈴音の影がある。
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すべてが“収束の途中”にある。
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青年は息を呑む。
「これが……全部の結果か」
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白い影は首を振る。
「まだ途中」
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その瞬間、核鐘が見える。
完全な形に近づいている。
しかし中心にまだ“穴”がある。
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そこだけが、決まっていない。
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ゴォォォン……
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鐘の音がその穴に吸い込まれる。
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青年は理解する。
収束とは終わりではない。
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選択の圧縮だ。
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影が言う。
「この穴を埋めるものが、最後の世界になる」
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青年は震える。
「埋めるって……何で」
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返答の代わりに、空間が割れる。
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そこに見えるのは三つの像。
平の記憶
木村の記憶
鈴音の記憶
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それらは均等に揺れている。
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影は続ける。
「どれか一つでは不完全」
「だが、全部は存在できない」
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ゴォォォン……
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音が一段深くなる。
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青年の中に理解が落ちる。
これは“選択”ではない。
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融合だ。
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平の声。
『戻れ』
木村の声。
『進め』
鈴音の声。
『止めて』
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三つの声が重なる。
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青年は一歩踏み出す。
そして、穴の前に立つ。
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白い影が最後に言う。
「ここで、鐘は完成する」
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ゴォォォン……
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第三章・第十話
「完成する音」へ続く。




