第二話「円の再出現」
時計が再び動き出した瞬間、駅の空気は“何事もなかったように”流れ始めた。
人々は歩き出す。
電車は到着する。
アナウンスも正常に戻る。
しかし青年だけは気づいていた。
「戻ってない……」
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ホームの床。
さっきまでなかったはずの“薄い円形の痕跡”が残っている。
黒でも白でもない。
ただ、見てはいけない形の輪郭。
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ゴォォン……
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その音は、もう“外から聞こえるもの”ではなかった。
駅そのものが発しているように感じられる。
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青年は一歩後退する。
すると円の中心が、わずかに沈む。
まるで“呼吸”しているように。
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その時、ホームの反対側で叫び声。
「おい、何だこれ!」
サラリーマン風の男が床を指さしている。
しかし周囲は誰も反応しない。
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見えているのは一部の人間だけ。
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円は、少しずつ増えていた。
ホームの端にもう一つ。
改札の近くにもう一つ。
階段の下にも。
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それぞれが“独立したもの”ではない。
すべてが繋がっている。
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青年は理解する。
「これは……広がってるんじゃない」
「増えてる」
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ゴォォォン……
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その音に合わせて、円が一斉に反応する。
駅の照明が一瞬だけ落ちる。
そして戻る。
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その“隙間”に、何かが立っていた。
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白い影。
顔はない。
だが輪郭ははっきりしている。
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鈴音ではない。
しかし、鈴音に“似た構造”。
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影は円の中心を見下ろしている。
まるで確認するように。
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青年の耳に声。
「再接続が完了していく」
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青年は叫ぶ。
「お前は誰だ!」
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返事はない。
代わりに、駅全体の広告モニターが一斉に変わる。
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『円は再起動した』
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ゴォォォン……
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その瞬間、青年の足元の円が一気に広がる。
ホーム全体へ。
線路へ。
天井へ。
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空間が“面”ではなく“層”として変わっていく。
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青年は気づく。
これは侵食ではない。
再構築だ。
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その時、改札の向こうから誰かが走ってくる。
見覚えのない学生。
息を切らしながら叫ぶ。
「おい!これ見えないのか!」
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青年は答えられない。
その学生の背後にも、円がある。
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さらに別の声。
「止まれ!」
「ここ危ない!」
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しかし誰も“何から危険なのか”説明できない。
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ゴォォン……
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音が重なる。
円も重なる。
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駅全体が、ゆっくりと“鐘の構造”に変わっていく。
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その中心で、白い影が一言だけ呟く。
「外側の記憶が戻ってきている」
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青年は理解する。
これは新しい侵食ではない。
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以前の崩壊の“続き”だ。
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第三章・第三話
「記憶の重なり」へ続く。




