↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第二章「消えた巫女」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/58

第二十一話「内側へ」

白い。


それが最初の感覚だった。


音も、重さも、距離もない。


平は“立っている”のかすら分からない状態で、ただ意識だけが残っていた。


やがて、ゆっくりと感覚が戻る。



---


ゴォォン……


鐘の音が、遠くで鳴っている。


しかし今度は違う。


“外から聞こえる音”ではない。


平の意識そのものが震えているようだった。



---


目を開ける。


そこは都市でも屋上でもない。


神社でもない。


ただ、巨大な円筒の空間。


どこまでも続く“鐘の内側”。



---


空間の壁には、無数の映像が浮かんでいる。


崩れる都市


消えていく人々


神社の境界


白い花


鈴音の涙



それらが絶えず流れている。



---


平はゆっくりと立ち上がる。


足元に地面の感触はある。


だがそれは土でもコンクリートでもない。


記憶の密度だった。



---


「……ここはどこだ」


声が響く。


しかし自分の声ではない。


少し遅れて返ってくる。



---


その時、背後から声。


「ここは“鐘の内部”」


振り返る。


木村がいた。



---


だが違う。


彼は“人間”ではない。


輪郭が曖昧で、音の粒子のように揺れている。



---


「木村……?」


平が近づく。


木村は首を振る。


「もう俺は“木村”じゃない」



---


ゴォォン……


鐘が鳴る。


木村の輪郭が一瞬だけ崩れる。



---


「ここに来た者は皆、音になる」



---


平は息を呑む。


「音……?」


木村はゆっくり頷く。


「記憶は音に変換される」


「感情も、罪も、恐怖も」



---


空間の壁に映像が現れる。


坂本の叫び。


松原の絶叫。


森村の崩壊。


木下の沈没。


石井の消失。


植田の断絶。



---


それらは映像ではない。


すべて“音の形”だった。



---


平は理解する。


「俺たちは……ここに保存されてるのか?」


木村は答えない。


代わりに、遠くを見た。



---


その先に、鈴音がいた。



---


しかし、もう“人”ではない。


鐘の中心に溶け込むように存在している。


泣いているのか、笑っているのかも分からない。



---


鈴音の声が響く。


「ようやく来たのね」



---


平は叫ぶ。


「全部お前の仕業か!」



---


鈴音は首を振る。


「違う」


「これは村でも、鐘でもない」



---


ゴォォォン……


空間が揺れる。



---


「これは“選ばれ続ける仕組み”」



---


平は一歩踏み出す。


「じゃあ終わらせろ!」



---


鈴音は静かに答える。


「終わりはない」



---


空間の奥。


無数の“外側の都市”が見える。


そこでは今も人が生活している。


しかしその上に、薄く鐘の輪郭が重なっている。



---


平は気づく。


ここは終着点ではない。


中枢だ。



---


鈴音が最後に言う。


「あなたはもう、外には戻れない」


「でも選べる」



---


ゴォォォン……


鐘が鳴る。



---


「記憶として残るか」


「新しい鐘になるか」



---


平の足元に、円が現れる。


ゆっくりと閉じていく。



---


第二章・第二十二話


「鐘の継承」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。