第二十話「選別都市」
都市全体に広がった円は、もはや“見えるもの”ではなくなっていた。
平が屋上から見下ろしていた景色は、静かに崩れていく。
ビル群。
道路。
信号。
人の流れ。
それらすべてが、一定のリズムで“遅れている”。
ゴォォン……
そのたびに、都市のどこかが一瞬だけ停止する。
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平の背後に気配が立つ。
振り返る。
誰もいない。
しかし、確かに“いる”。
空気の密度が変わっていた。
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声が響く。
鈴音でもなく、木村でもない。
もっと無機質な、構造そのものの声。
「選ばれていない者は、まだ外にいる」
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平は拳を握る。
「俺は何なんだ……」
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その瞬間、スマートフォンが鳴る。
木村からの着信。
出る。
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ノイズ。
その奥で、木村の声が途切れ途切れに聞こえる。
『平……都市はもう鐘の中だ』
『外側は……ない』
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平は叫ぶ。
「お前どこにいる!」
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返事の代わりに、鐘の音。
ゴォォォン……
そして、その直後。
木村の声。
『俺は……中にいる』
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通話が切れる。
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平は崩れそうになる。
だがその瞬間、都市全体が“同時に鳴った”。
ゴォォォォン!!!
空気が震える。
しかし音は外からではない。
都市のすべての地点から同時に発生している。
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人々が初めて反応する。
立ち止まる。
耳を押さえる。
しかし誰も“それを音として認識できていない”。
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平だけが見ている。
都市の中心。
そこに“穴”が開いていく。
鐘の内側へ繋がる裂け目。
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白い影がそこに立つ。
鈴音に似ている。
だがもう“個”ではない。
都市全体の輪郭を持つ存在。
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その影が言う。
「ここまで来た」
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平は一歩後ずさる。
「何が目的だ……!」
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影は答えない。
代わりに、都市のすべての画面が一斉に変わる。
信号機
電光掲示板
スマートフォン
ビルの広告
すべてに同じ文字。
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『選別開始』
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ゴォォォン……
鐘が鳴る。
今度は逃げ場がない。
都市全体が“選ばれる空間”になる。
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平の足元の円が完全に閉じる。
視界が歪む。
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最後に聞こえるのは、都市の声ではない。
鐘の奥からの声。
無数の声が重なる。
坂本、松原、森村、木下、石井、植田、木村。
そして――鈴音。
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「次は、お前だ」
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平の視界が白く塗りつぶされる。
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第二章・第二十一話
「内側へ」へ続く。




