第二話「聞こえない男」
神社から戻った翌朝。
平は目覚まし時計の音で目を覚ました。
いつもと変わらない朝。
カーテンの隙間から差し込む光。
スマホの通知。
昨日の肝試しの写真。
何も変わっていない。
そう思っていた。
しかし、写真を見た瞬間、平の表情が固まった。
集合写真。
八人で撮ったはずの写真。
そこには確かに七人しか写っていなかった。
「……木村?」
平は写真を拡大する。
一番端にいたはずの木村の姿だけが、ぼやけて消えていた。
「加工か?」
そう思った瞬間。
スマホから音が鳴った。
通知。
木村からだった。
『昨日のこと、覚えてる?』
平は返信する。
『覚えてる。どうした?』
すぐに返事が来た。
『鐘の音、聞こえた?』
平は画面を見つめた。
意味が分からなかった。
『何言ってる?』
数秒後。
返事。
『俺には聞こえなかった』
その一文に、平は嫌な感覚を覚えた。
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昼。
八人は集まった。
昨日の神社の話をするためだった。
木村は真剣な顔をしていた。
「俺、あの鐘が鳴った後、変な声を聞いた」
坂本が笑う。
「まだ言ってるのかよ」
「違う。昨日から調べたんだ」
木村は古い資料を机の上に置いた。
「昔、あの神社では鐘の儀式があったらしい」
「儀式?」
木村は頷いた。
「村で亡くなった巫女を鎮めるための鐘」
森村が眉をひそめる。
「鎮める?」
「そう。でも記録にはこう書かれてた」
木村は紙を指差した。
そこには古い文字で、
『鐘を鳴らした者、愛を知る者、音に呼ばれる』
と書かれていた。
「意味不明だな」
石井が言った。
だが木村は続けた。
「最後の一文」
木村の声が小さくなる。
「『まだ穢れを知らぬ者には届かない』」
全員が沈黙した。
その時。
突然。
部屋の奥から音がした。
ゴォーン……
全員の顔から血の気が引いた。
誰も喋らない。
確かに聞こえた。
鐘の音。
しかし。
木村だけが首を傾げた。
「……今、何?」
全員が木村を見る。
「聞こえなかったのか?」
平が聞く。
木村は青ざめた。
「何が?」
その瞬間。
坂本が笑った。
「冗談だろ」
しかし笑顔はすぐ消えた。
なぜなら。
窓の外。
遠くの山の方から。
もう一度。
ゴォーン……
鐘の音が響いたから。
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その夜。
坂本は一人で帰宅した。
「くだらない」
そう呟きながら部屋に入る。
だが。
靴を脱いだ瞬間。
聞こえた。
ゴォーン……
「……」
坂本の顔が固まる。
テレビは消えている。
隣の部屋も静か。
なのに。
鐘の音だけが聞こえる。
ゴォーン……
二回。
昨日より近い。
坂本は震える手でスマホを取り出した。
平へ電話をかける。
「もしもし……」
「坂本?」
「聞こえるか?」
「何が?」
坂本は答えられなかった。
電話越しの平の声。
その後ろで。
何かが鳴った。
ゴォーン……
平が息を止める。
「……今、聞こえた」
二人の間に沈黙が流れる。
坂本は震えながら言った。
「明日……俺、死ぬのか?」
その瞬間。
部屋の電気が消えた。
暗闇の中。
坂本の背後から。
金属が擦れる音がした。
ギィ……
巨大な何かが動く音。
そして。
耳元で。
女の声が囁いた。
「次は……あなた」
電話越しに。
坂本の叫び声だけが響いた。
そして翌朝。
最初の犠牲者が出る。
――坂本だった。




