第一話「深夜の肝試し」
山の夜は、街の夜とは違う。
光がない。
音がない。
そして、何かが潜んでいても気付けない。
平は車の窓から暗闇に包まれた山道を見つめながら、ため息をついた。
「本当にこんなところに神社あるのか?」
運転している植田が笑う。
「あるって。地図にも載ってる。昔は村の人が使ってたらしいぞ」
後部座席では坂本と松原がスマホを見ながら騒いでいた。
「見てみろよ。ここの神社、やばい噂あるぞ」
「またそういう作り話だろ」
森村が呆れた声を出す。
坂本は画面を見せた。
そこには古い掲示板の書き込みがあった。
『山奥の神社の鐘を鳴らしたら、三日以内に死ぬ』
『聞こえる鐘の音が近づいてきたら終わり』
『逃げても無駄』
木下が笑う。
「ありがちな怪談じゃん」
「でもさ……」
石井が小さな声で言った。
「この神社、昔から人が近づかないって話だぞ」
車内が少し静かになった。
平は苦笑した。
「だからこそ肝試しだろ」
その言葉に全員が笑った。
ただ一人、木村だけは笑わなかった。
「なあ、本当に行くのか?」
「木村、怖いのか?」
坂本がからかう。
「いや……なんか嫌な感じがする」
「お前、幽霊とか信じるタイプだっけ?」
「信じてない。でも……」
木村は山の奥を見た。
なぜか、あそこだけ空気が違う気がした。
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車を止め、八人は懐中電灯を持って山道を歩いた。
古い石段。
崩れた鳥居。
読めなくなった石碑。
そして、その先に神社があった。
屋根は壊れ、壁は黒ずんでいる。
まるで何十年も誰も触れていない場所だった。
「ここ、本当に神社かよ」
森村が呟く。
境内の中央。
そこに巨大な鐘があった。
普通の寺にある鐘とは違う。
黒く変色し、表面には見たことのない文字が刻まれていた。
平が近づく。
「これ、鳴るのか?」
植田が笑った。
「試してみればいいだろ」
「やめとけよ」
木村が止める。
しかし坂本が縄を掴んだ。
「せっかく来たんだ。記念だろ」
そして――
縄を引いた。
ゴォーン……
低い音が山中に響いた。
その瞬間。
全員のスマホの電源が落ちた。
風が止まった。
虫の声も消えた。
世界から音が消えたようだった。
「……今の、聞いた?」
松原が震える声で言う。
「鐘だろ?」
平が答える。
だが木村だけは違和感を覚えていた。
鐘の音の後。
誰かの声が聞こえた気がした。
小さな女の声。
――見つけた。
木村は振り返る。
誰もいない。
ただ、暗い本殿の奥から。
何かがこちらを見ている気がした。
その夜。
彼らはまだ知らなかった。
鐘を鳴らした瞬間から、
八人の運命が決まっていたことを。
そして三日後。
最初の鐘の音が、再び聞こえることを。




