第十八話「鐘が外にある日」
平は朝、目を覚ました瞬間に違和感を覚えた。
天井が低い。
部屋が狭い。
いや、正確には“部屋の距離感”が変わっている。
深呼吸をしたとき、胸の奥にわずかな振動があった。
ゴォン……
一瞬だけ、鐘の音。
しかし外からではない。
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平は洗面台の鏡を見る。
そこに映った自分の顔が、ほんのわずかに遅れて動く。
「……なんだこれ」
指を動かす。
遅れる。
瞬きをする。
遅れる。
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その時、スマートフォンが震えた。
圏外は解除されている。
通知が一気に流れ込む。
しかし、その中に混じっていた。
知らない音声ファイル。
再生する。
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ゴォォォン……
静かな鐘の音。
その後に、木村の声。
『平……聞こえるか』
平は息を呑む。
『もう“外”は外じゃない』
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録音はそこで途切れる。
代わりにノイズ。
そして最後に、鈴音の声。
『鐘は移動した』
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平の手が震える。
「……移動?」
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外に出る。
朝の街はいつも通りに見える。
だが、何かが違う。
信号の音が一瞬ずつずれている。
人の会話が途中で途切れる。
犬の鳴き声が反響しない。
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平は気づく。
世界全体が“薄い膜”の中にある。
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その時だった。
ゴォォォン……
遠くではない。
街のどこか。
ではなく――
街そのものの“奥行き”から鳴った。
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人々は気づかない。
平だけが振り向く。
ビルの谷間。
そこに“歪み”がある。
円形。
ゆっくりと広がる。
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ゴォォォン……
二度目。
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人の動きが一瞬止まる。
しかしすぐに再開される。
誰も気づいていない。
平だけが見ている。
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影が現れる。
白い着物。
鈴音ではない。
だが似ている。
顔のない影。
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影はゆっくり歩く。
そしてビルの壁に“触れる”。
その瞬間。
壁に鐘の模様が浮かぶ。
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平は理解する。
「ここはもう……神社の外じゃない」
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その夜。
テレビニュース。
「市内で原因不明の音響異常」
「複数地点で共鳴現象」
アナウンサーの声が一瞬だけ途切れる。
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ゴォォォン……
画面が暗転する。
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平はリモコンを握ったまま動けない。
部屋の隅に影がある。
円形。
ゆっくりと“部屋に馴染んでいく”。
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声がする。
木村の声ではない。
鈴音の声でもない。
鐘そのもの。
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「ここからが、本当の始まり」
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平の足元に黒い線が走る。
円を描き始める。
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第二章・第十九話
「都市の鐘」へ続く。




