第十七話「外に残された者」
鐘の音が止んだあと、世界は不自然なほど静かだった。
風が吹いているはずなのに、音がない。
虫の声もない。
心臓の鼓動だけが、やけに大きく響く。
平はその場に立ち尽くしていた。
木村は消えた。
鐘の中へ。
鈴音も、同じように薄れていった。
まるで最初から存在していなかったかのように。
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平は数歩後退し、膝をついた。
「……ふざけるな」
声は山に吸い込まれる。
返事はない。
ただ、神社の方向からかすかに“重い振動”だけが残っていた。
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翌朝。
平は一人で山を下りた。
誰にも連絡できない。
電話は圏外ではなく、“繋がらない”。
どの番号も呼び出し音の途中で消える。
まるで世界から切り離されたようだった。
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町に戻ると、いつも通りの日常があった。
通勤する人間。
コンビニの明かり。
笑う声。
しかし平には違和感があった。
「音が……薄い」
車のエンジン音も、足音も、どこか遠い。
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その夜。
平は自宅でテレビをつけた。
ニュースが流れる。
「山中での事故、調査続く」
画面には見覚えのある山が映っている。
だが、神社の話は一切出ていない。
まるで最初から存在しないかのように。
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ゴォォン……
その時だった。
テレビの音声が一瞬だけ歪む。
アナウンサーの声が途切れ、代わりに鐘の音が混ざる。
平はリモコンを落とした。
「まだ……続いてるのか」
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部屋の明かりが揺れる。
壁に影が浮かぶ。
円形。
まるで鐘の内側。
平は後退する。
「やめろ……俺は関係ない」
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影の中心から、声が聞こえる。
鈴音でもない。
木村でもない。
無数の声。
坂本。
松原。
森村。
木下。
石井。
植田。
そして――木村。
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「お前は外にいる」
「だから見える」
「だから聞こえる」
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平は叫ぶ。
「何なんだよこれは!!」
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ゴォォォォン!!!
鐘の音が部屋を満たす。
しかし音は外からではない。
平の中から鳴っている。
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その瞬間、理解が落ちてくる。
木村は消えたのではない。
鈴音は解放されたのではない。
ただ役割が移っただけ。
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“鐘の内側”と“外側”は分断されていない。
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平は息を止める。
自分の手を見る。
指先がわずかに黒く変色している。
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窓の外。
遠くの山。
そこにはもう神社は見えない。
だが確かに聞こえる。
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ゴォォン……
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鐘は、まだ終わっていない。
むしろ今――
外へ出た。
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第二章・第十八話
「鐘が外にある日」へ続く。




